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消費税増税のときに便乗値上げをするお店があります。これっていいのでしょうか?国はこれまで禁止としてきましたが、今回は容認の姿勢です。便乗値上げは良いのか悪いのか。法令や政府の告知を踏まえながら、わかりやすく解説します。

便乗値上げが容認された?

2019年10月の消費税増税に向けて、政府は2018年11月に消費税増税に伴う商品などの価格について、ガイドラインを公表しました。

これまでの増税時には、「便乗値上げは、いけません。」などと、政府のパンフレットに記載されていましたが、消費税が10%に引き上げられる今回は、便乗値上げを容認する内容に変更されています。

これについては、ガイドラインにはっきりと記載されています。

従来、消費税率の引上げを理由として、それ以上の値上げを行うことは「便乗値上げ」として抑制を求めてきましたが、これは消費税率引上げ前に需要に応じて値上げを行うなど経営判断に基づく自由な価格設定を行うことを何ら妨げるものではありません。
出典:消費税率の引上げに伴う価格設定について(ガイドライン)(内閣官房など関係省庁)

簡単にいうと、商品の価格は企業が市場の需給の中で決定するものであって、政府がそれを抑制するものではない、と言っているのです。

便乗値上げって法律違反じゃなかったの?罰則は?

便乗値上げを禁止していたこれまでも、便乗値上げを取り締まる法律はなく罰則などもありませんでした。

従前のパンフレットにも「禁止」としながら、以下のように記載されていました。

一般に、個々の商品などの価格は、自由競争の下で市場条件を反映して決定されるものであるため、実際にどのような場合に便乗値上げに該当するのかを判断するに当たっては、それが税負担の変化による上昇幅を超えているかという点のほか、商品などの特性、需給の動向やコストの変動など、種々の要因を総合的に勘案する必要があります。
出典:消費税の円滑かつ適正な転嫁のために(内閣官房など関係省庁)

これまでも、国に対して便乗値上げに関する相談はあったものの、実質的な取り締まりというのは難しく、便乗値上げと判断されたケースはなかったようです。

禁止されているのは価格表示、広告、不適正な転嫁

こういった中で、今回の増税で禁止されているのは、大きく3つあります。

消費税増税に伴って禁止されていること

  1. 不適正な価格表示
  2. 不適正な広告
  3. 不適正な価格転嫁

1. 不適正な価格表示

お店などの価格表示は基本的に消費税を含んだ総額の表示をすることになっています。

問題ないとされる総額表示の例は以下のようになります。

10,800円
10,800円(税込)
10,800円(税抜価格10,000円)
10,800円(うち消費税額等800円)
10,800円(税抜価格10,000円、消費税額等800円)
出典:「総額表示」の義務付け(国税庁タックスアンサー)

総額であれば、「税込」といった記載も不要で価格のみを表示するだけでもOKなのです。

ただし、消費税の税率が変更される中で、すぐにすべての表示を変更するのは難しいため、税抜価格を表示して「税抜」であることを目立つようにしておけばよいという特例があります。

例:10,000円(税抜)

上記の総額表示や税抜価格の特例以外の方法で価格を表示すると、お客さんが誤解する恐れがあり禁止されています。

2. 不適正な広告

セールなどの広告で、「消費税還元セール」など、消費者に代わって企業が消費税を支払うというような誤解を与える広告は禁止されています。

消費税を納税するのは消費者ですので、実際と異なる説明で消費を煽ってはダメということです。

一方で、「2%値下げセール」のようなものは、通常のセールであり問題ありません。

「2%」が増税分の幅で「消費税分の還元」といったイメージを与えそうですが、何%のセールをしようが企業が勝手にやることであって、取り締まる対象ではないのです。

3. 不適正な価格の転嫁

商品や食べ物などは最終的に消費者の手に届きますが、それまでにはいくつかの業者を経由しています。

パン屋さんの場合、「小麦農家 → 製粉会社 → パン屋さん → 消費者」といった具合です。

この間、それぞれの商品に消費税がかかります。適正に消費税がかかっている状態であれば、適正な転嫁が行われていることになり、問題ありません。

しかし、この時に、ある業者が仕入れ先に対して「消費税分上乗せするなら、仕入れ先変えるよ。」など、適正な消費税の転嫁を妨げるようなことをすると、消費税転嫁対策特別措置法違反になってしまいます。

これまでの増税時の便乗値上げ状況

消費税が8%に引き上げられたときに、便乗値上げと判断されたケースはなかったと記載しましたが、実際に値上げを行った企業はたくさんあります。

例えば飲食店を対象としたアンケートでは以下のような結果があります。

消費税増税後の値上げについて(飲食店)

メニューの値上げについて

  • 値上げした:43%
  • 値上げしなかった:26.2%
  • 当時は開業していない:30.7%

売上への影響

  • 売上が減った:34.1%
  • 影響なし:65.9%

飲食店リサーチの結果をもとに記載

消費税増税と同じタイミングで値上げを行うと価格表示の切り替えも一度ですみますし、企業としてはコストがかからずに良いのだと思います。

このように値上げするお店が多くても、その理由は原材料費の高騰かもしれませんし、人件費や研究開発費などが増加したのかもしれません。

消費税の増税と同じタイミングであっても、それが便乗値上げかどうかを区別することは難しいということです。

便乗値上げは許せない?

企業側からすると増税によって売上が減るのだから、便乗値上げは仕方ないという意見もあるのですが、どのような価格戦略を取ることが企業の成長に有益なのかは一概に言えないと思います。

私自身も消費税が8%になったときに、「これって便乗っていうのでは?」と思ったことがありました。

消費税5%の時に「105円(税込)」で販売していたものを、消費税8%になると同時に、「105円(税抜)」として、105円に対して8%の消費税を取るというものです。

この場合、本来的には税込で108円になれば納得できるのですが、105円に8%分を加算して113円として販売しているのです。

もちろん、このような場合でも、値上げの理由づけはどうにでもなりますので、便乗値上げと断言できないでしょう。

個人的な思いとしては、価格の付け方は企業の自由とはいえ、お気に入りのお店でこれをやられると、許せいないという感情がわいてしまいます。

そういった一人一人の感情が消費を冷やしていく気がしますので、値上げするのであれば、増税前にやってほしいと思います。

増税のときは、あくまでも消費税だけを機械的に変更することが、企業イメージにもプラスに働くように思います。

高ければ買わなければよい

とはいえ、価格が許せないのであれば、私たち消費者としてはその店で購入しなければいいだけです。

基本的に価格は市場の需要と供給で決まりますので、高いと思えば買わないということです。

今回は国のポイント還元があるので値上げが横行するかも?

今回の増税では2019年から9ヶ月間、国が実施するポイント還元があります。

2%から5%のポイント還元がありますので、増税分以上にポイントが還元されます。

そのため、少しの値上げならポイントの中に紛れるという思いから、値上げを実施するお店が増えるかもしれません。

国のガイドラインにも以下のような記載がありました。

今回は、中小・小規模小売事業者に対して、来年10月の消費税引上げ後の一定期間に限り、ポイント還元といった新たな手法などによる支援などを行う予定です。これにより、中小・小規模小売事業者は、消費税率引上げ前後に需要に応じて柔軟に価格設定できる幅が広がるようになります。
出典:消費税率の引上げに伴う価格設定について(ガイドライン)(内閣官房など関係省庁)

国も値段については、市場に任せるというスタンスのようですので、便乗値上げと思っても、目くじらを立てずに、それでも購入するのか、他のお店に行くのか自分でしっかりと考え方をもって行動していきましょう。

まとめ

消費税の税率が10%になる今回から便乗値上げなどは禁止とせず、容認する姿勢になりました。

政府や日銀は物価上昇の目標も掲げていますので、緩やかに物価が上昇してくれるのは嬉しいことだと考えています。

これまでの増税は少なからず景気に影響を与えてきましたので、今回は景気にマイナスの影響がなく乗り切ることが重要です。

そのためには私たちの消費に対する意識も重要になると思います。