今回は5年に一度厚生労働省が公表している「年金の財政検証」について説明します。今後の年金について国がどのように見ているのか、わかりやすく解説します。
2019年の年金財政検証の結果
財政検証は、「将来の公的年金の財政見通し」といって、今後の年金がどれほど支払われるのかなどを検証するものです。
財政検証では様々な条件のもとで、いくつかのパターンで検証を行なっています。
まずは、ポイントとなる結果を記載します。(少し詳しい内容はあとで説明します。)
- 今後の景気がよくなる場合、年金の所得代替率は51.9%を確保できる。
- 今後の景気があまりよくならない場合、年金の積立金がなくなり、所得代替率は37%〜35%程度になる。
- 現在の所得代替率61.7%を維持するには、景気があまりよくならない場合、2019年に20歳の人は68歳9月まで年金を納付する必要がある。
「所得代替率」とは、現役世代の収入と年金収入の割合のことで、現役の時と比べてどのくらい年金収入があるか、という割合のことです。
わかりやすく式で表すと以下のようになります。
将来の年金は金額ではなく、給与と比較した数値で表します。
インフレなどで物価が上がったりすると、年金の金額が増えても実質的には増加していることにはなりません。このため、給与との割合で表すのです。
財政検証の結果では、計算上では所得代替率が50%を切ることが示されていますが、実際には所得代替率が50%に維持される仕組みになっています。
実際に所得代替率が50%を切るようなことになると、保険料の引き上げや税金の投入額を増やすなどして、50%を維持するということです。
年金の財政検証の前提・条件
結果から先に説明してきましたが、そもそも財政検証はどのように行なっているのでしょうか。
様々な要素を勘案しながら、多くの手順を踏んでいるのですが、ここでは手法を簡単に説明したいと思います。
まずは、年金の金額の決め方です。
年金額の決め方
個人の年金は、保険料の納付額や納付月などによって異なりますが、ここでいう年金額は、満額納めた時にいくらになるかなど、計算の元となる金額のことです。
例えば、2019年4月に改定された国民年金の1年間の満額は、780,100円です。
こういった元となる金額は、概ね2つの要素で決定します。
- 物価・賃金の動向
- マクロ経済スライド
物価や賃金の動向を年金額にも反映させるというのは、わかりやすいと思います。物価が上がっていたら年金も上げてくれないと生活が苦しくなってしまいます。
もう一つのマクロ経済スライドとは、そのときの人口や平均寿命などを考慮して、年金額を調整する仕組みで、年金額を減少させるものです。
マクロ経済スライドは、物価の上昇で年金額を引き上げるときに、上げ幅を縮小する形で行われるもので、物価が下落して年金額が下がる場合には、この調整は行われません。
財政検証の前提
上記で物価・賃金の動向が年金額を決めると記載しましたが、その物価や賃金の動向(経済の見通し)を想定する必要があります。
また、マクロ経済スライドでは、今後の人口の推移などを予想する必要があります。
これらのことは、例年、国の機関が行なっていることで、それをもとにしています。
将来の人口についてはこちらです。
これによると、人口のピークは2008年の1億2808万人でそれ以降は下落しています。そして2065年には8808万人になると推計されています。
人口の推計は3パターンの出世率で想定していますが、この表は出生率を中位で見たものになります。
次にこちらが労働力率の前提です。
この表は2040年に、どのくらいの労働力があり、どのくらいの人が実際に働いているかを推計したものです。
労働力率とは、15歳以上の人のうち、通学や家事などで労働しない人を抜かした人の割合です。
就業率とは、実際に働いている人の割合です。(労働力率に含まれて就業率に含まれていない人は失業者ということになります。)
そして、労働力人口と65歳以上の人口は以下のように推移します。
労働力人口は右肩下がりになっているのがわかります。
そして、経済状況の前提として用いた内閣府の試算したモデルが以下になります。
ここでは経済成長に伴い、物価や賃金、運用利回りがどの程度変化するかを見ています。
上段の表では物価上昇率が2024年以降に2.0%となっていますが、これまでの実績を踏まえると難しい状況で、下段の表程度が現実的だと考えられます。
物価が上昇しなければ、賃金も上昇せず、経済成長自体が小幅になります。
上記の経済前提をもとに、ケース1からケース6までの推計において、以下の想定をしています。
近年の経済状況を踏まえると、物価上昇率が0.8%であるケース5が現実的に感じます。
財政検証の結果について
財政検証においては所得代替率が重要といいましたが、最低でも50%を確保することが大切です。
2019年における所得代替率は61.7%です。
今回のケース1からケース6までの検証結果は以下のとおりです。
ケース1〜ケース6それぞれ割合が掲載されていますが、これが所得代替率です。
- ケース1:51.9%
- ケース2:51.6%
- ケース3:50.8%
- ケース4:46.5%
- ケース5:44.5%
- ケース6:37%〜35%
所得代替率が50%を割り込む場合は50%を維持することになっているので、ケース4以下でも括弧付きで50%となっていますが、実質的には50%を割り込むようです。
もっとも景気がよくなるケース1でも、2046年度までマクロ経済スライドが行われて、最終的に所得代替率は51.9%になります。
現在の61.7%と比較すると、16%の減少となります。つまりそのくらい年金が減る可能性があるということです。
ケース4〜6は景気が悪くなる方の想定です。この場合は通常どおりマクロけ経済スライドを行うと所得代替率は50%を割ってしまいます。
もっとも悪いケース6だと37%〜35%と記載されています。
現在と同じ年金額(所得代替率61.7%)をもらうために必要な保険料の納付期間
上記の検証では、年金が少なくなることがわかりましたが、現在の水準の年金をもらうためには、いつまで働いて保険料を納付すればよいのでしょうか。
この図はケース5に基づいて算定したものですが、これによると、現在20歳の人は68歳9月まで、30歳の人は68歳4月まで、40歳の人は67歳2月まで保険料の納付が必要になります。
今後は年金改革が必要ではないか
今回の検証結果を見て思うことは、どのケースであっても年金は減少していくしかないということです。
経済状況に大幅な好転がない限り、そして人口が増加しない限り、現在の年金制度では限界があります。
現在の年金制度は賦課方式といって、現役世代の保険料を使って年金を支給する仕組みです。
つまり、保険料の支払額と年金の受給額には関連がないということです。
年金制度ができたのは1961年です。
様々な議論がある中で始まった年金制度ですが、当時の平均寿命は男が66.03歳、女が70.19歳です。
平成30年の平均寿命は男が81.25歳、女が87.32歳です。
これだけ寿命が伸びて、多くの人が健康で長生きするようになっているのに、根本的には制度が変化していないというのは厳しいように思います。
とはいえ、積立方式にして保険料を支払った分は年金で戻ってくるという方式にするにも、現行制度からの切り替えなどの課題もあります。
国は、今回の財政検証の結果を踏まえつつ、制度改革の議論を進めてほしいと思います。
まとめ
年金の財政検証について解説してきました。
将来に向かって年金が減少していくのが理解できたと思います。
現在の制度では、公的年金の他に、iDeCoなどを利用して将来に向けた積み立てをしておくのが理想だと思います。
寿命が伸びた今、少しでも元気で長く働くのも大切です。
将来に向けて、しっかりと備えていきましょう。