小数点以下の消費税は切り捨てればいいんだよね。と単純に考えていませんか?
今回は小数点以下の計算で消費税の納付額が変わってくることや、特例の積み上げ方式について解説します。
消費税の計算で小数点以下が出たらどうすればよいか
商品の販売をする際には、原則として商品の価格に消費税の金額を加えた総額を値札などに記載することになります。
このときに、消費税に端数が生じた場合は、どのように表示すればよいのでしょうか。
例えば、本体価格198円の商品で消費税が8%の場合、以下のようになります。
- 本体価格:198円
- 消費税 = 198円 × 8% = 15.84円
消費税15.84円の端数0.84円の処理については、以下の規定があります。
総額表示に伴い税込価格の設定を行う場合において、1円未満の端数が生じるときには、その端数を四捨五入、切捨て又は切上げのいずれの方法により処理しても差し支えありません。
「総額表示」の義務付け(国税庁タックスアンサー)
小数点以下の処理は切上げ、切捨て、四捨五入のどれでもよいことになっています。
消費税の申告ではどのように計算するのか
商品を販売する際に、消費税の小数点以下の端数処理はどのようにしてもよいのですが、納付する消費税の計算では端数処理に別の規定があります。
消費税の納付額の計算(国税分の6.3%)は以下のように計算します。
消費税納付額の計算(国税6.3%分)
- 売上高 × 100/108 = 課税標準額(計算結果の1000円未満を切捨て)
- 課税標準額 × 6.3% = 売上の消費税額(端数なし)
- 仕入(経費)× 6.3/108 = 仕入(経費)の消費税(1円未満を切捨て)
- 売上の消費税額 – 仕入(経費)の消費税 = 納付税額(100円未満切捨て)
このように計算の過程で、切捨てを行っていきます。
商品の消費税を切上げにした場合・切捨てにした場合の違い
消費税の切上げや切捨てが、納付税額に影響を及ぼすのかどうか、198円の商品を一つずつ1万個販売した場合を例にして、実際の消費税と納付する消費税を比較してみます。
商品価格の例
- 商品一つの金額(税込)= 198円 × 1.08 = 213.84円
- 切上げ:214円
- 切捨て:213円
販売の合計額
- 本体売上:198円 × 1万個 = 198万円
- 消費税切上げ:214万円(消費税16万円)
- 消費税切捨て:213万円(消費税15万円)
このように消費税の切上げ、切捨てで1万円の差が生じます。
このときに納付する消費税を計算します。(売上分の消費税のみの計算)
切上げ | 切捨て | |
---|---|---|
課税標準額 | 1,981,000 | 1,972,000 |
国税分6.3% | 124,803 | 124,236 |
地方分1.7% | 33,677 | 33,524 |
納付消費税 | 158,400 | 157,700 |
実際に受けた消費税と納付する消費税額は以下のようになります。
切上げ | 切捨て | |
---|---|---|
受け取った消費税 | 16万円 | 15万円 |
納付する消費税 | 15万8400円 | 15万7700円 |
差額 | +1600円 | -7700円 |
切捨てと切上げで、納付する消費税額と実際の消費税額に差額が生じることが理解できたと思います。
ただし、仕入や経費について考慮して計算することで、実際の消費税と納付する額の差額は小さくなっていくものと考えます。
消費税の計算における特例・積み上げ方式
上記のとおり、消費税の納付額は期間の合計額をもとにして、計算をしていくのが原則です。
このため、実際に受けた消費税や支払った消費税と、納付する額に多少の誤差が生じることになります。
ただし、特例によって、一つずつの取引ごとの消費税を積み上げて計算する方式も認められています。
現在では廃止されている消費税法施行規則旧第22条第1項の規定を、特例的に認めるというものです。
この消費税法施行規則旧第22条第1項とは、「本体価格と消費税の価格を別に処理している場合、その消費税の合計額をそのまま消費税にしてもよい」というものです。
つまり、一つずつの取引の金額で計算される消費税(端数処理済)の額を消費税として良いということです。
したがって、前述のような小さい金額のものを多く販売する際に生じる端数の税額を負担しなくてよいことになります。
この特例が認められるのは以下の場合です。
売上で積み上げ方式が認められる場合
- 税抜価格を前提とした事業者間の取引(経過措置1)
- 税込価格を前提とした事業者間・消費者との取引(経過措置2)
- 税込価格を表示しているがレジなどのシステムが整っていない(経過措置3)
なお、経過措置1〜3は国税庁タックスアンサー「課税標準額に対する消費税額の計算の特例」の経過措置1〜3に対応しています。
【参考】課税標準額に対する消費税額の計算の特例(国税庁タックスアンサー)
以下に、一つずつ解説していきます。
1. 税抜価格を前提とした事業者間の取引(経過措置1)
事業者間の取引で、領収書に税抜価格と消費税の金額(端数処理済)を明確に区分して記載している場合には、領収書ごとの消費税額を積み上げて納付額を計算していいことになっています。
2. 税込価格を前提とした事業者間・消費者との取引(経過措置2)
事業者または消費者との取引において、領収書等に税込価格と端数処理後の消費税額(端数処理済)を明確に区分して記載している場合には、その領収書の消費税額を積み上げて納付額を計算できることになっています。
この場合、商品単位ではダメで、あくまでも領収書単位ということになります。
3. 税込価格を表示しているがレジなどのシステムが整っていない(経過措置3)
消費者に対して、消費税を含めた価格を表示しているものの、レジなどが消費税を含んだ金額に対応できていない場合などは、積み上げ方式が認められています。
経過措置の適用について
上記の経過措置を適用するには、領収書や請求書の単位を積み上げていくのが前提となり、消費税の端数処理はこの領収書や請求書の単位で行います。
仕入や経費にかかる消費税の積み上げについて
売上ではなく、それを仕入れた側の処理については、どのように行うのでしょうか。
原則的な方法
仕入れの消費税についても、売上と同様に原則として仕入や経費の合計額に税率を乗じて計算します。
具体的には、消費税を含めた仕入れや経費の合計額に、6.3/108 を乗じます。(6.3%は国税分の消費税率)
つまり、原則は積み上げ方式ではありません。
積み上げ方式ができる場合
仕入れの相手が、売上時に上記の積み上げ方式(経過措置1〜3)で処理をしている場合には、こちら側も積み上げ方式で処理することができます。
そのほか、仕入れの相手が消費税の金額を請求書等に記載していない場合や、経過措置に沿っていない端数処理をしている場合については、請求の都度、消費税額を計算して経理処理をすることができます。(この場合の消費税の端数処理は切捨てが四捨五入に限られます。)
【参考】消費税額等の積上げによって仕入れに対する消費税額を計算するとき(国税庁タックスアンサー)
まとめ
今回は消費税の端数処理の方法、そして消費税の経理や申告における原則的な計算方法と、特例の積み上げ方式について説明してきました。
業種によっては消費税はとても細かくなり、計算も煩雑になりがちです。
消費税の計算で損をすることのないよう、計算方法をしっかりと確認してください