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株式にはクロス取引という取引方法があります。
この手法を使って含み損の損失を確定させて、節税をする方法があります。
今回はクロス取引で節税をする方法について説明します。

株式のクロス取引とは

クロス取引とは、同一銘柄で同一数量につき、売りと買いを同時に行うことです。

自分自身で売りと買いを同時に行うので、株価は変動せずに保有の状態に変化を与えることができます。

なぜ、このようなことをするのかというと、このことで以下の三つができるようになるからです。

  1. 損失確定(利益確定)による節税
  2. 株主優待の取得
  3. 信用取引の返済期限に伴う乗り換え

ここでは、1の損失確定(利益確定)による節税について説明していきます。

説明の前に、まずクロス取引に関する法律について解説します。クロス取引は正常な取引でないため、法律関係を確認することが大切です。

クロス取引に関する法律について

株式の取引は通常、需要と供給に基づいて株価が決定されていきます。

つまり、騰がると思うから買う、下落すると思うから売るなど、銘柄の需給関係によって株価が決まりますし、株価が上昇すれば取引が活発になり、出来高(売買数)も増加していきます。

しかし、クロス取引は株式の出来高は増加するものの、株価自体に変化はありません。

このことについて、金融商品取引法に以下のような記述があります。

金融商品取引法(抜粋・一部省略)
第百五十九条 何人も、有価証券の売買、市場デリバティブ取引又は店頭デリバティブ取引のうちいずれかの取引が繁盛に行われていると他人に誤解させる等これらの取引の状況に関し他人に誤解を生じさせる目的をもつて、次に掲げる行為をしてはならない。
一 権利の移転を目的としない仮装の有価証券の売買、市場デリバティブ取引又は店頭デリバティブ取引をすること。

二〜九 略
2 何人も、有価証券の売買、市場デリバティブ取引又は店頭デリバティブ取引のうちいずれかの取引を誘引する目的をもつて、次に掲げる行為をしてはならない。
一 有価証券売買等が繁盛であると誤解させ、又は取引所金融商品市場における上場金融商品等若しくは店頭売買有価証券市場における店頭売買有価証券の相場を変動させるべき一連の有価証券売買等又はその申込み、委託等若しくは受託等をすること。
以下 略
金融商品取引法第159条(e-Gov)

この法令から以下の点が読み取れます。

  • 権利の移転を伴わない売買は仮装売買と見なされる可能性がある。

普段1000株の出来高しかない銘柄で、10万株のクロス取引を行えば、あたかも売買が活発に行われているように見えます。

このように、誤解を与えるような取引をすることは禁じられているのです。

このことで課徴金が課された事例がありますので、以下に紹介します。

クロス取引で課徴金が課された事例

クロス取引で課徴金が課された事例として、よく紹介されるのが以下の件です。

  • Aは、岐阜銀行の株式123万8000株について、6社の証券会社を介してクロス取引を行った。(29営業日に渡った行われた)
  • 目的は節税(特定口座内での株式の取得単価が切り上げられることを利用したもの)
  • 当該株式取引の市場占有率(当該株式の出来高のうちクロス取引が占める割合)は29営業日全体で16.88%(中には60%を超える日もあった。)

【参考】株式会社岐阜銀行株式に係る相場操縦に対する課徴金納付命令の決定について(金融庁)

この事例では、123万株以上のクロス取引を行い、しかも対象となる株式の出来高全体の16.88%もの出来高になっていたということで、仮装取引とみなされたようです。

どれくらいの株数や頻度で行うと仮装取引とみなされるのかは不明ですが、本人が節税目的で取引したとしても、多くの出来高を伴うことなどであたかも売買が盛んに行われているように見える場合は仮装取引とみなされるようです。

逆にいえば、相場に影響を与えるような株数でなければ、問題になることはないとも考えられます。

クロス取引に関する証券会社の見解など

クロス取引はザラ場中に行うと仮装売買と判断される可能性があるため、寄り付き前に買いと売りの注文を出しておくことが重要なようです。

このことは、証券会社のHPなどにも掲載されています。

【参考】カブドットコム証券・不公正取引Q&A

また、クロス取引による株主優待の取得などは証券会社のHPや雑誌でも紹介されていますので、仮装取引に関してはあまり問題にはならないと思います。

とはいえ、株式の取引については自己責任で行うということを忘れないでください。

クロス取引で節税をする方法

クロス取引で節税をすることについて、簡単な事例で説明します。

  • A株式…100万円の利益(確定)
  • B株式…40万円の含み損(未確定)

現状では100万円の利益のみが確定していて、損失については含み損の状態だとします。

このままで12月を終了すると、100万円の利益に対して20万円の税金が確定します。

しかし、含み損の株式がある状態ですので、こちらで損失と相殺できれば嬉しいところですね。

40万円が損失となれば、利益は100万円−40万円=60万円となり、税金は12万円になります。

つまり20万円−12万円=8万円が節税となります。

この時にクロス取引を行います。

上記の事例で、B株式の買値が1株あたり1000円で1000株を購入して、現在は1株600円前後だったとします。

  1. 信用取引でB株式を1000株買い建てる。
  2. 現物のB株式1000株を売る。
  3. 翌日以降に信用取引で買った1000株を現引きする

1と2は同時に行う必要があり、この部分がクロス取引になります。

寄付前に両方を成行注文で入れておきます。

仮に600円で寄り付いた場合、以下の状態になります。

  • B株式の現物を1株600円(1000株で60万円)で売却(40万円の損失が確定)
  • 信用取引でB株式を1株600円(1000株で60万円)で取得

そして、翌日に信用取引で取得したB株式を現引きして、現物株とします。

現引きとは、信用取引で取得した株式を現物の株式に引き換えることです。

このことで、40万円の損失が確定しますので、利益と相殺することで、上記のとおり8万円の節税になります。

しかも、B株式については含み損を確定させただけで、実質的な損失はありません。(当然、今後株価が上がればその分は利益になります。また多少の手数料などがかかります。)

なお、年内に取引にならないと、その年の損失になりません。権利確定日などを確認して取引するようにしてください。

現引きは翌日以降に行うことが重要

現引きは翌日以降と記載しましたが、これは重要なポイントです。

現物の売りと買いを同日に行った場合、特定口座の計算では「買い」が先に計算されてしまうので、株式の取得単価がこちらの想定と異なってしまいます。

上記の例で、同日に信用取引の買い建てを現引きした場合、株式の取得単価と損失額は以下のようになります。

  • 取得単価…((1000株×1000円)+(1000株×600円))/2000株=800円(1株あたり)
  • 確定損失額…100万円−80万円=20万円

現物の売りよりも買いを先に計算するため、計算上は一時的に2000株を保有して、その後に1000株を売却したように計算されてしまいます。

したがって、想定していた金額の損失が確定されず、節税額(上記の例では損失額が40万から20万円に減ってしまう。)が少なくなってしまうのです。

これを翌日以降に行うことで、正しく計算されます。

このことについては、証券会社のFAQなどに記載されていますので参考にしてください。

SBI証券のFAQ

マネックス証券のFAQ

損失が確定していて含み益を確定させる場合

上記の説明では、利益が確定しているときに含み損を確定させる方法でしたが、逆に損失が確定しているときに含み益を確定させて、節税することもできます。

例えば、100万円の損失が確定しているときに、含み益を100万円分確定させるということです。

100万円の利益には20万円の税金がかかるわけですが、100万円の損失があれば差し引き0円になりますので、利益はなしということで税金はかかりません。

手順は上記と同様です。

損失は3年間繰越が可能

ただし、損失については確定申告をすることで3年間繰り越すことができます。

つまり、今年100万円の損失が出て利益が全然なかったとしても、確定申告をしておけば、翌年の利益と損益通算をすることができるので、翌年の税金が安くなるのです。

ですから、含み益を確定させたくない場合は、3年間の繰越期間であれば、無理に確定させなくてもよいのです。

配当と株式の譲渡益の損益通算には条件がある

株で出した損失は配当所得とも損益通算することができます。

ただし、配当の受け取りを以下のように設定しておく必要があります。

  • 特定口座(源泉徴収あり)とする
  • 受け取り方法を株式数比例配分方式にする

配当の受け取り方法については初期設定で「株式数比例配分方式」になっていない証券会社もありますので、必ず確認してください。

仮に株式数比例配分方式になっていない場合は、確定申告をすることで損益通算をすることになります。

また、株の譲渡所得と配当所得の損益通算は、年内の取引が確定した後の翌年1月に精算されます。

したがって、翌年にならないと証券口座の画面上で税金が確定した状態を確認できませんので注意してください。

異なる証券会社の株式や配当の損益通算は確定申告が必要

一つの証券会社の特定口座で取引している場合は、自動的に証券会社が損益通算をしてくれますが、いくつかの証券会社で取引をしている場合は注意が必要です。

例えば、A証券会社では100万円の利益、B証券会社では50万円の損失、といった場合は確定申告をしないと損益通算することができません。

また、配当所得は確定申告をするだけで税率が低くなることがあり、株のマイナスがなくても節税できることがあります。

株や配当に関する確定申告については、こちらの記事もご覧ください。

まとめ

株式の取引では、利益は確定させるけど、含み損は塩漬け…といった人が多くいます。

利益分では税金を払うけど、損失は含み損のまま…ではもったいないと思います。

利益を出している人は、少しでも節税をした方がいいと思います。

なお、クロス取引やそれに伴う節税方法に関しては、くれぐれもご自身で手法を確認の上、ご自身の責任のもとで取引をしてくださいますようお願いします。