2020年4月1日から大学などの高等教育の無償化が実施されます。今回はその対象者や制度内容、手続きについて、FPがわかりやすく解説します。
大学無償化とは
2019年10月に消費税が増税されたことで、その税収の一部を使って、大学・短大・専門学校などの無償化制度が始まります。
この「大学無償化」という名称は、現在さまざまな名称で呼ばれていますが、この制度を規定している法律は「大学等における修学の支援に関する法律」という名称で、「高等教育の修学支援制度」、「高等教育無償化」「大学無償化」などと呼ばれています。この記事では「大学無償化」として記載していきます。
大学無償化とは、勉強したい人の経済的な負担を軽減することを目的とした制度で、主に以下の点を支援します。
- 授業料等の減免(入学金や授業料の免除や減額)
- 給付型奨学金(返さなくていい奨学金)
大学無償化の対象となる学校
無償化の対象となるのは、以下の学校です。
- 大学
- 短大
- 高等専門学校
- 専門学校
具体的に対象となる学校は文部科学省のHPで公表されています。
令和元年9月の公表時点で、大学・短大は97%、高専100%、専門学校は62%が対象となっています。しっかりと確認しておきましょう。
大学無償化の対象となる人
支援対象となるのは、「住民税非課税世帯」及び「それに準ずる世帯」の学生で、これから進学する人だけでなく、すでに大学生などになっている人も含まれます。
支援額は年収によって異なりますが、大まかに以下のようになります。
年収の目安 | 支援額 |
---|---|
〜約270万円 | 満額 |
約270万円〜300万円 | 満額の2/3 |
約300万円~380万円 | 満額の1/3 |
※両親・本人・中学生の家族4人世帯の場合(高等教育の修学支援制度・文部科学省の資料を当サイトで改変)
家族構成による年収の違いはこちらをご覧ください。
表の中に当てはまる世帯は、住民税が非課税に近い水準です。
年収は源泉徴収票で確認することができます。
年収が一定額以上になる場合は支援を受けられませんが、年収はあくまで目安です。
それ以上であっても380万円に近い場合は、日本学生支援機構(JASSO)の進学資金シミュレーターなどで確認して、学校に相談してみるといいでしょう。
所得以外の要件
所得以外にも要件があります。
- 生計維持者が2人の場合、2,000万円未満
- 生計維持者が1人の場合、1,250万円未満
ただし、銀行の通帳などを見せる必要などなく、自己申告でOKです。以前は通帳の写しを確認していましたが、新制度では提出不要とされました。
- 日本国籍、法定特別永住者、永住者等又は永住の意思が認められる定住者であること。
- 高等学校等を卒業してから2年の間までに大学等に入学を認められ、進学した者であって、過去において本制度の支援措置を受けたことがないこと。
また、成績などの要件もありますが、基本的には成績が悪くてもやる気があれば認められる制度となっています。
手続きと実施時期
現在高校生の場合と、すでに大学生などのなっている人で手続きが異なります。
高校生の手続き
高校生の場合は進学後の支援となります。早いうちから手続きの準備をしておきましょう。
基本的には学校と相談した上で、日本学生支援機構(JASSO)へ申し込みを行います。
- 6月頃:自分の世帯が対象となるか、進学先の学校が支援対象であるかなどを確認しておく
- 7月頃:対象になりそうで支援を受けたい場合は、学校の先生と相談しつつ、JASSOへ申し込み
- 12月〜1月頃:審査結果がJASSOから学校を通じて本人に通知される。
- 4月 :進学先の学校で授業料と入学金の減免の手続きを行う。
大学生などの手続き
すでに大学生、短大、専門学校生になっている人も、もちろん手続きすることができます。
これまで国立大学などでは、今回の制度よりも広い水準で授業料の免除などを行なっていましたが、2020年から入学する学生については、大学独自の制度は適用されず、新制度の対象となるのが原則です。(大学などによって異なる場合がありますので、詳細は各学校で確認してください。)
- 10月頃まで:自分の世帯が対象となるか、進学先の学校が支援対象であるかなどを確認しておく
- 11月頃:給付型奨学金はJASSOへネットから申し込み、授業料等減免は学校から書類をもらって学校へ申し込み
- 4月 :給付型奨学金、授業料等減免ともに審査結果が学校を通じて本人へ通知される。
大学無償化による支援の金額
支援の金額は収入によって異なりますが、満額支給される場合に国公立は入学金・授業料のどちらもほとんど全額が免除されます。
私立大学については、7割〜8割程度の授業料と入学金が免除されるイメージです。
文部科学省や日本学生支援機構(JASSO)のHPから、支援金額をまとめめてみると、以下のようになります。
年収約270万円までの世帯(住民税非課税・第1区分)
– | 国公立 | 私立 | ||
---|---|---|---|---|
– | 入学金 | 授業料 | 入学金 | 授業料 |
大学 | 約28万 | 約54万 | 約26万 | 約70万 |
短期大学 | 約17万 | 約39万 | 約25万 | 約62万 |
高等専門学校 | 約8万 | 約23万 | 約13万 | 約70万 |
専門学校 | 約7万 | 約17万 | 約16万 | 約59万 |
– | 国公立 | 私立 | ||
---|---|---|---|---|
– | 入学金 | 授業料 | 入学金 | 授業料 |
大学 | 約14万 | 約27万 | 約14万 | 約36万 |
短期大学 | 約8万 | 約20万 | 約17万 | 約36万 |
専門学校 | 約4万 | 約8万 | 約14万 | 約39万 |
– | 私立 | |
---|---|---|
– | 入学金 | 授業料 |
大学 短期大学 専門学校 |
約3万 | 約13万 |
国公立 | 私立 | |||
---|---|---|---|---|
– | 自宅生 | 自宅外 | 自宅生 | 自宅外 |
大学 短期大学 専門学校 |
29,200円 (33,300円) |
66,700円 |
38,300円 (42,500円) |
75,800円 |
高等専門学校 |
17,500円 (25,800円) |
34,200円 |
26,700円 (35,000円) |
43,300円 |
通信過程 | 51,000円 |
※生活保護世帯(受けている扶助の種類を問いません。)で自宅から通学する人及び児童養護施設等から通学する人等は、上表のカッコ内の金額となります
年収300万円までの世帯(住民税非課税に準ずる世帯・第2区分)
– | 国公立 | 私立 | ||
---|---|---|---|---|
– | 入学金 | 授業料 | 入学金 | 授業料 |
大学 | 約19万 | 約36万 | 約17万 | 約47万 |
短期大学 | 約11万 | 約26万 | 約17万 | 約41万 |
高等専門学校 | 約5万 | 約15万 | 約9万 | 約47万 |
専門学校 | 約5万 | 約11万 | 約11万 | 約39万 |
– | 国公立 | 私立 | ||
---|---|---|---|---|
– | 入学金 | 授業料 | 入学金 | 授業料 |
大学 | 約9万 | 約18万 | 約9万 | 約24万 |
短期大学 | 約5万 | 約13万 | 約11万 | 約24万 |
専門学校 | 約3万 | 約5万 | 約9万 | 約26万 |
– | 私立 | |
---|---|---|
– | 入学金 | 授業料 |
大学 短期大学 専門学校 |
約2万 | 約9万 |
国公立 | 私立 | |||
---|---|---|---|---|
– | 自宅生 | 自宅外 | 自宅生 | 自宅外 |
大学 短期大学 専門学校 |
19,500円(22,200円) | 44,500円 | 25,600円(28,400円) | 50,600円 |
高等専門学校 | 11,700円(17,200円) | 22,800円 | 17,800円(23,400円) | 28,900円 |
通信課程 | 34,000円 |
※生活保護世帯(受けている扶助の種類を問いません。)で自宅から通学する人及び児童養護施設等から通学する人等は、上表のカッコ内の金額となります
年収380万円までの世帯(住民税非課税に準ずる世帯・第3区分)
– | 国公立 | 私立 | ||
---|---|---|---|---|
– | 入学金 | 授業料 | 入学金 | 授業料 |
大学 | 約9万 | 約18万 | 約9万 | 約23万 |
短期大学 | 約6万 | 約13万 | 約8万 | 約21万 |
高等専門学校 | 約3万 | 約8万 | 約4万 | 約23万 |
専門学校 | 約2万 | 約6万 | 約5万 | 約20万 |
– | 国公立 | 私立 | ||
---|---|---|---|---|
– | 入学金 | 授業料 | 入学金 | 授業料 |
大学 | 約5万 | 約9万 | 約5万 | 約12万 |
短期大学 | 約3万 | 約7万 | 約6万 | 約12万 |
専門学校 | 約1万 | 約3万 | 約5万 | 約13万 |
– | 私立 | |
---|---|---|
– | 入学金 | 授業料 |
大学 短期大学 専門学校 |
約1万 | 約4万 |
国公立 | 私立 | |||
---|---|---|---|---|
– | 自宅生 | 自宅外 | 自宅生 | 自宅外 |
大学 短期大学 専門学校 |
9,800円(11,100円) | 22,300円 | 12,800円(14,200円) | 25,300円 |
高等専門学校 | 5,800円(8,600円) | 11,400円 | 8,900円(11,700円) | 14,500円 |
通信課程 | 17,000円 |
※生活保護世帯(受けている扶助の種類を問いません。)で自宅から通学する人及び児童養護施設等から通学する人等は、上表のカッコ内の金額となります
支援の継続について
大学無償化の支援を受け始めたら、その後毎年成績などの資料を提出する必要があります。
あわせて、所得などの調査も毎年実施されます。
以下のどちらかに当てはまれば継続できる
- 成績が上位1/2以上である
- 単位を順調に修得(必要単位/修業年限×学年)または学習計画書に学修意欲・目的・人生設計が確認できる
他の支援を受けている人について
大学無償化による支援については、以下の支援を受けている人は二重にもらうことはできません。
この場合、給付型奨学金は支給されません。(授業料等の免除は受けられます。)
- 教育訓練支援給付 (雇用保険法)
- 訓練延長給付 (雇用保険法)
- 技能習得手当及び寄宿手当 (雇用保険法)
- 職業訓練受講給付金 (職業訓練の実施等による特定求職者の就職の支援に関する法律)
- 高等職業訓練促進給付金 (母子父子寡婦福祉法)
まとめ
大学無償化制度は、高校の無償化制度と合わせると、低所得者など経済的に問題があってこれまで十分な教育ができなかった世帯について、大学までの修学資金を支援するものです。
一部の難関大学へ入るには勉強のために一定の教育費用が必要と考えられますが、そうでなければ本人の努力によって、大学まで進学できることになりました。
以前は新聞奨学生などがありましたが、こうして修学の機会が与えられるのはとても良い制度だと思います。
参考サイト
- 国の高等教育の修学支援新制度(文部科学省)
- 高等教育の修学支援新制度 関連法令・通知(文部科学省)
- 高等教育の修学支援新制度について(R1.5.14 説明会資料)
- 独立行政法人日本学生支援機構
- 修学資金シミュレーター(日本学生支援機構)