老後の資金のために重要な個人型確定拠出年金(イデコ)ですが、ニーサ(NISA)も同様にお得な制度です。今回は2つの制度の違いやメリットについて解説します。
イデコとNISAはどちらがお得?
個人型確定拠出年金(iDeCo・イデコ)(以下「イデコ」)と、2014年からスタートしたニーサ(以下「NISA」)は、どちらも非課税などの優遇を受けられる投資関連の制度ですが、いったいどちらの方がお得なのでしょうか。
ここではNISAについて解説しながら、イデコとNISAのメリットをポイントに絞って比較します。
NISAの基本は「非課税投資枠」と「非課税期間」
NISAとは「少額投資非課税制度」のことです。
この制度の最も基本となるのは「非課税投資枠」と「非課税期間」の2点です。
非課税投資枠とは
非課税投資枠とは投資によって得られる利益が非課税になる金額の枠を指します。
通常、株式や投資信託の運用によって得られる利益が20万円を超えると課税対象となり、所得税と住民税を合わせて20%(2014年から2037年までは20.315%)の税率が課せられます。
しかし、NISAの専用口座を利用すると、年間120万円までの投資金額であれば、そこから生まれた利益を全額非課税で受け取ることができます。
非課税期間とは
非課税期間とは、この非課税投資枠を利用できる期間を指します。
NISAの種類によって非課税期間は異なりますが、例えば一般のNISAだと最大5年と定められています。
この期間に得られた運用益には税金がかかりません。
一般のNISAで以下のように運用したとします。
- 毎月10万円を5年間積み立て→総額600万円
- 5%の利回りで運用
この場合、5年後の資産は以下のようになります。
- 5年後の総資産金額は約683万円
- 運用益は83万円
このときに運用益に対する税金は、NISAを利用するかしないかで、以下のように異なります。
NISA利用 | NISA利用しない | |
---|---|---|
税金 | 0円 | 17万円 |
NISAの注意点
上記の非課税枠と非課税期間に加えて、注意しておきたい点が2点ほどあります。
1. NISAは「非課税投資枠の再利用ができない」
NISAには一つ大きな制約があります。それは「非課税投資枠の再利用ができない」という点です。
例えば、120万円の投資枠のある一般NISAの場合、10万円の投資信託を購入すると、残りの非課税投資枠は110万円となります。
ここで今購入した10万円の投資信託を売却しても、非課税投資枠は110万円のまま戻りません。非課税投資枠が120万円になるのは各年の初めだけです。
したがって、NISAでの資産運用は計画的に行う必要があります。
2. 非課税期間が終わったときの選択肢は原則3つ
非課税期間が終わると、NISAの利用者は次の3つの選択肢から資産の取り扱いを決めることになります。
期間終了後の3つの選択肢
- ロールオーバーを行う。
- 課税口座(通常の運用口座)に移す。
- 売却する。
一般のNISAでは、利用1年目の非課税投資枠120万円が5年間の非課税期間を終えると、6年目に新たな非課税投資枠120万円を利用できるようになります。
ロールオーバーとは非課税期間を終えた資産を、この新たな非課税投資枠に移し入れることをいいます。
この場合、新規で追加の投資をすることはできません。つまりNISAで運用できる総資産金額は原則として600万円が上限になるということです。
なお、運用によって非課税期間終了時に120万円を超えていても、全額をロールオーバーすることができます。
3種類のNISAの違いを理解しよう
NISAには全部で3種類のバリエーションがあり、どのバリエーションを選ぶかも運用する資産の性質によって考慮しなければなりません。
種類 | 概要 | 投資枠 | 期間 |
---|---|---|---|
一般のNISA | 商品が多い | 年120万円(5年600万円) | 5年間 |
つみたて NISA |
長期の積立用 | 年40万円(20年800万円) | 20年間 |
ジュニア NISA |
19歳以下を対象 | 年80万円(5年400万円) | 5年間 |
この3種類について、それぞれについて詳しくみていきましょう。なお、NISAは2020年の税制改正で改正されることとなっています。詳しくはこちらの記事も確認してください。
一般のNISAは自由度が高い
対象者 | 日本在住の20歳以上(口座開設年の1月1日時点) |
---|---|
金融機関変更 | 可能 |
取引者 | 口座名義人(本人) |
非課税投資枠 | 新規投資額で毎年120万円(5年間で600万円) |
非課税期間 | 最長5年間 |
対象商品 | 上場株式、ETF、投資信託など |
ロールオーバー | 可 |
払出制限 | なし |
他NISAとの併用 | ジュニアNISA |
一般のNISAの特徴は、自由度の高さです。
対象商品も上場株式、ETF、投資信託など様々な選択肢があり、ロールオーバーも可能。
払出制限もないため、もし突然お金が必要になった場合でも、特別な手続きをせずに払出を行うことができます。
また1年あたりの非課税投資枠が3種類のNISAの中で最も大きい点も強みです。
結婚資金や住宅購入資金、海外旅行資金など、どちらかというと短期的に必要になる資産を節税しながら形成するという使い方に適しています。
つみたてNISAは時間を味方に安全な運用ができる
対象者 | 日本在住の20歳以上(口座開設年の1月1日時点) |
---|---|
金融機関変更 | 可 |
取引者 | 口座名義人(本人) |
非課税投資枠 | 新規投資額で毎年40万円(20年間で800万円) |
非課税期間 | 最長20年間 |
対象商品 | 一定の要件を満たした投資信託など |
ロールオーバー | 不可 |
払出制限 | なし |
他NISAとの併用 | ジュニアNISA |
つみたてNISAの最大の特徴は20年という非課税期間の長さです。
また年間の非課税投資枠は40万円と3つの中で最小であるものの、40万円×20年=800万円と最終的な運用金額は最大となっています。
ロールオーバーができないため、20年の非課税期間が終了すると課税口座へ移すか、売却するかの選択肢しかありません。
しかし、非課税期間の長さは資産の運用期間の長さでもあり、最終的な運用金額の大きさはそこから生まれる利益の大きさでもあります。
また、年間の非課税枠の40万円を毎日購入するという方法もあり、積立投資のメリットを最大限にいかした安全な資産運用も可能です。
したがって、老後の生活資金など、長期的な視点での資産形成を目指すのであれば、つみたてNISAが適しているといえるでしょう。
なお、「一定の要件を満たした投資信託など」とは、インデックス連動型の商品など、長期運用に適した低コスト低リスクの商品を指します。
選択の幅は狭くなりますが、初めから高コスト高リスクの商品が除外されているということでもあるので、大きなデメリットにはなりません。
ジュニアNISAは子どものための資産形成
対象者 | 日本在住の0歳〜19歳(口座開設年の1月1日時点) |
---|---|
金融機関変更 | 不可 |
取引者 | 原則、親権者など |
非課税投資枠 | 新規投資額で毎年80万円(5年間で400万円) |
非課税期間 | 最長5年間 |
対象商品 | 上場株式、ETF、投資信託など |
ロールオーバー | 可 |
払出制限 | 18歳まで払出不可 |
他NISAとの併用 | 一般のNISA、つみたてNISA |
ジュニアNISAの最も大きな特徴は、払出制限が設けられている点です。
この特徴のために他のNISAに比べると資産としての動かしにくくなっています。
したがってジュニアNISAの口座には、子どもが18歳になるまで動かす必要のない資産を入れる必要があります。
例えば子どもの大学の授業料や一人暮らしのための生活資金などの資産を、節税しながら形成するという使い方に適しています。
またジュニアNISAは、一般のNISA・つみたてNISAとの併用ができます。
そのため、いざというときに使えるお金はNISAやつみたてNISAの口座に入れておいて、使わなくても済む金額をジュニアNISAの口座に入れるといった使い分けも可能です。
なお、ジュニアNISAは利用件数が少ないことから、2023年で終了することとなっています。
イデコとNISAは「合わせ技」が正解
イデコとNISAの違いは「節税効果」と「自由度」
ここまでの内容を踏まえつつ、イデコとNISAのポイントとなる「節税効果」と「自由度」について比較しました。
イデコ | NISA | ||
---|---|---|---|
節税効果 | 開始時 | あり | なし |
運用時 | あり | あり | |
受取時 | あり | あり | |
自由度 | 換金性 | 低い | 高い |
対象商品 | 少ない | 多い | |
期間 | 60歳まで※ | 5年、もしくは20年 |
開始時の節税効果
投資を開始したタイミングでの両者の節税効果は、イデコに軍配が上がります。
イデコは拠出金額の全額が所得控除となるので、所得税と住民税の節税が可能となるのに対し、NISAでは口座に入金して投資を開始しても特別な節税効果はありません。
運用時の節税効果
運用が始まり、利益が出始めるタイミングの節税効果については、イデコもNISAも得られる利益については非課税となるため同じです。
受取時の節税効果
イデコの受け取りには所得税・住民税が課せられますが、同時に公的年金の控除制度が利用できるため、非課税に近い状態になる可能性があります。
一方NISAは運用時と同様、受取時も非課税となります。
したがって受取時の節税効果について両者を比較した場合、NISAの方が優れているといえます。
以上のことから、節税効果に関しては拠出金の全額が所得控除となるイデコのメリットが大きいといえます。
換金性の自由度
イデコの換金性は60歳以上にならないと受け取れないため、低いといえます。
一方NISAはジュニアNISAを除けば換金性は非常に高く、いつでも任意で取り崩しが可能です。
対象商品の自由度
イデコの対象商品は35本が上限となっています。
一方NISAの対象商品はつみたてNISAを除けば非常に幅広く、より自由度の高い資産運用を行うことができます。
ただし、2024年以降は一般のNISAでも対象商品に制限がかかることとなります。
期間の自由度
最大で40年以上も利用できるイデコに対し、NISAは最大5年もしくは20年に限定されています。
したがって「どれだけの期間節税をしながら資産形成をできるか」という観点においては、イデコの方が自由度が高いといえます。
イデコとNISAは使い分けよう
投資関連の非課税制度の利用目的は節税なので、資産を投じる優先順位は節税効果が高いものほど上位になります。
イデコとNISAの比較により、イデコの方が節税効果が高いことがわかりました。
したがって、節税を第一目的とする場合で、イデコとNISA、どちらを利用するかを迷ったときは、イデコから利用を開始するべきです。
ただし、イデコは自由度の面で劣ります。そのためイデコは結婚資金や旅行資金、教育資金のように短期的に必要になる資産の形成・運用には不向きです。
一方、NISAはそうした資産にこそ活用するべきでしょう。
イデコとNISAは「どちらが得か」と考えるではなく、「どう使い分けるか」を考えるのが正解です。
自分の人生プランと照らし合わせて、資産を適切に振り分けるようにしましょう。
まとめ
イデコとNISAはどちらか一方が完全に優れているというわけではなく、使いようによってはどちらもお得になる制度です。
両者の違いをしっかり理解したうえで、自分にとってのベストの使い分けを導き出しましょう。