医療費控除ってどうすればいいの?いくらから?病院で言われたけれどよくわからない人いませんか?今回は医療費控除の内容や申告方法についてわかりやすく解説します。
医療費控除には2種類ある
医療費控除には以下の2種類があり、どちらか一つを選択して申告します。
- 病院にかかった医療費の控除
- 薬局で購入した薬の代金のみの控除
1は病院の診察、入院、薬局での薬など、医療費全般を控除できます。
2は薬局で購入した薬だけが対象になります。
ただし、1は10万円を超える金額が対象となるのに対して、2は1万2千円を超える金額が対象になります。
病院へ行かずに市販の薬だけで済ませた人は、その分税金を少なくしてあげるということです。
この記事では、1の病院にかかったときの医療費について説明します。
医療費控除は所得税と住民税の控除
医療費控除は、所得税と住民税の「所得控除」と呼ばれる控除の一つです。
所得税も住民税も計算方法や仕組みはほとんど同じで、以下のように計算します。
- 所得税・住民税 = (所得 – 所得控除)× 税率 – 税額控除
医療費控除などの所得控除は、税率をかける前に差し引くので、実際に税金が少なくなる金額は控除額の税率分になります。
例えば、所得が300万円で医療費控除が10万円、税率が10%の場合、医療費控除がある場合とない場合では以下のように税金が異なります。
- 医療費控除なし:所得300万円 × 10% = 30万円
- 医療費控除あり:所得300万円 – 医療費控除10万円 × 10% = 29万円
- 差額:1万円
実際の計算はもう少し複雑になりますが、医療費控除だけを考えると、10万円の医療費控除で税率が10%であれば、税金は1万円減少します。
なお、医療費控除の申告についてはあとで説明しますが、確定申告をすることで、所得税も住民税も控除されることになります。
限度額は200万円
医療費控除の限度額は計算した結果の金額が200万円までです。
所得税と住民税の両方が対象
所得税は国に納める税金、住民税は都道府県や市区町村へ納める税金です。
所得税は所得に応じて税率が上がっていきますので、所得が多い人ほど控除される額も多くなります。
- 課税所得195万円〜330万円:10%
- 課税所得330万円〜695万円:20%
- 課税所得695万円〜900万円:23%
- 課税所得900万円〜1800万円:33%
- 課税所得1800万円〜4000万円:40%
- 課税所得4000万円〜:45%
一方で住民税は市町村などで多少の差はありますが、基本的に10%です。
例えば所得税の税率が20%の人であれば、住民税と合計して税率は30%になりますので、医療費控除が10万円の場合は、その30%にあたる3万円分の税金が安くなります。
10万円を超える医療費が対象
医療費控除の対象になるのは10万円を超える部分の医療費です。医療費控除の計算は以下のようになります。
- 医療費控除 = 実際に支払った医療費の合計額 – 保険金や高額療養費 – 10万円
ただし、総所得金額等が200万円未満の人は、「10万円」ではなく、総所得金額等の5%を超える金額となります。
この医療費の金額は自分だけでなく、生計が同じ家族の分であれば、すべて医療費控除の対象になります。
対象となる医療費の内容
医療費控除の対象となるのは以下のとおりです。
- 医師、歯科医師による診療や治療の対価
- 治療のためのあん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師、柔道整復師などによる施術の対価
- 助産師による分べんの介助の対価
- 医師等による一定の特定保健指導の対価
- 介護福祉士等による喀痰吸引等の対価保健師や看護師、准看護師による療養上の世話の対価
- 治療や療養に必要な医薬品の購入の対価
- 病院、診療所又は助産所などへ収容されるための人的役務の提供の対価
(根拠法令:所得税法73条、所得税法施行令207条、所得税法施行規則40条の3など)
病院や歯科で治療を受けた際に実際に支払った金額が対象となります。
もう少し具体的に説明したいと思います。
治療の内容について
病気の治療には健康保険の対象となるものと、自由診療と言って保険対象外のものがあります。
健康保険の対象でも自由診療でも医療費控除の対象となりますが、「一般的に支出される水準を著しく超えない部分の金額」が対象となります。
医療費控除の対象であるか迷ったら病院か税務署に問い合わせると間違いないのですが、病気に対する治療であればほとんどが対象になると思っていいです。
人間ドックなどの健康診断は治療ではないので対象外ですが、検診の結果で病気が見つかり治療を受けることになった場合は、人間ドックや健康診断の費用も対象となります。
美容整形は病気に対する治療ではないため対象となりません。
歯科治療について
歯科の治療については自由診療が多くありますが、こちらについてもあまりに高額であったり特殊なものでなければ、医療費控除として認められます。
例えば、セラミック、ポーセレン、金などをしようした治療はOKです。また、インプラントについても対象になります。
矯正については見た目だけのためで治療を受ける場合は対象外です。この辺については事前に医師と相談した方がいいかもしれませんね。
また、歯科治療については自由診療などは高額なものが多いので、ローンやクレジットなどを利用する人もいるでしょう。
ローンやクレジットについては自分の口座から引き落とされる金額ではなく、ローン会社が歯科へ支払った金額がその年の医療費控除の対象になります。
したがって、治療を受けた年(ローンの契約をした年)に全額が医療費控除の対象になるのが一般的です。
この場合はローンの契約書などが必要書類になりますので、きちんと保管しておきましょう。
- 自由診療でもOK
- セラミック、ポーセレン、金を使った治療はOK
- インプラント治療もOK
- 矯正(見た目を美しくするた目のものはダメ)
- ローンはローン会社が病院に支払った年の金額(本人がローン会社へ支払った時ではない)
【参考】医療費控除の対象となる歯の治療費の具体例(国税庁タックスアンサー)
眼科での治療について
眼科での治療も基本的に医療費控除の対象となりますが、眼鏡の購入費については注意が必要です。
近視や遠視用の眼鏡は視力を回復させる治療でないことから対象とはなりませんが、斜視、白内障、緑内障などで手術後に使うものなどは対象となります。
また、レーシックや角膜矯正療法については、視力回復のための治療であることから対象となります。
入院時の費用について
入院時には医療費だけでなく、着替えや部屋代など、様々な費用がかかります。
ただし、全てが医療費控除の対象ではありません。入院時に医療費控除とならないものをまとめておきます。
- 寝巻き、洗面具など
- 医療費以外に医師や看護師に払ったお礼金など
- 親族に払った付き添いのための費用(親族でなければ対象)
- 病院食以外に自ら購入などした食費
【参考】医療費控除の対象となる入院費用の具体例(国税庁タックスアンサー)
おむつ代について
病気で6ヶ月以上寝たきりで治療を受けている場合に、おむつが必要とされる場合は、医師に「おむつ使用証明書」を書いてもらうことで、おむつ代が医療費控除の対象となります。
おむつ証明書は市区町村の高齢者支援担当課または介護保険担当課においてありますので、必要な人はお住まいの市町村へ問い合わせてください。
出産費用について
妊娠してからの検診や検査の費用などは医療費控除の対象です。
通院費も対象になりますが、出産時に帰省する場合の交通費は対象外です。
また、入院時の衣服や身の回りのものにかかる費用は対象外です。
【参考】医療費控除の対象となる出産費用の具体例(国税庁タッックスアンサー)
通院費について
病院に行くために電車やバスなどを利用する場合は、その費用は医療費控除の対象になります。
電車やバスでは領収書をもらうのは難しいと思います。基本的には領収書がなくても、病院にいくときに利用した交通機関や金額をメモしておけば、必要書類として十分です。(一覧表にまとめておいたり、病院の領収書にメモしておくなど)
税務署から直接問われることはないと思いますが、きちんと説明できる状態にしておくことが大切です。
また、小さいお子さんと一緒にお母さんも病院へ付きそうことがあると思いますが、この場合はお母さんの交通費についても医療費控除の対象となります。年齢や病状によって一人で病院へ行くのが難しい場合は対象になるのです。
タクシーの利用は基本的には認められませんが、夜間などでやむを得ない場合や、病気の状態などから電車やバスを利用できない場合など、タクシーが必要な事情があれば、医療費控除として認められます。
タクシーを利用した場合は領収書をもらっておくといいでしょう。この場合も理由がしっかりとしていることが大切です。
そのほか、自分の車で通院する場合はガソリン代や駐車場代は認められません。
- 電車やバスは対象
- 領収書はなくてもメモをしておけばOK
- 子どもの付き添い費用もOK
- タクシーは基本的にダメだが、やむを得ない事情があればOK
- 自家用車のガソリン、駐車料金はダメ
高額療養費や保険金など差し引く金額について
医療費控除を受けるには、支払った医療費から医療保険などの入院給付などを差し引く必要があります。
実質的に自分で支払った金額が医療費控除の対象になるということです。
- 医療保険などから支払われる入院給付
- 高額療養費
- 出産一時金など
ここで注意したいのが、ある病気において支払った医療費が20万円で医療保険から30万円給付された場合などです。
医療費よりも保険で支払われた金額が10万円分多いですが、他の病気でかかった医療費からは差し引く必要はありません。
例えば・・
- ケガ 医療費20万円 保険給付30万円
- 歯科 医療費30万円
この場合は、ケガによる医療費は「20万円-30万円=-10万円」となり、10万円が支払額を超えていますが、歯科の30万円から差し引く必要はないということです。
歯科にかかった30万円は医療費控除として申告できます。
医療費控除の必要書類・手続きの改正点
医療費控除を受けるには、医療費を支払った領収書などが必要になります。
通院にかかった交通費などの場合で領収書がないものについては、前述のとおり、メモしておくことで医療費控除の対象になります。
また、薬局で購入した薬なども対象ですので、病気になったときの領収書はきちんと整理して保管しておき、確定申告の時期に計算できるようにしておきましょう。
領収書がない、どこにあるかわからない・・といった場合は、健康保険組合や国民健康保険から送付される「医療費のお知らせ」に基づいて医療費控除を受けることも可能です。
ただし、被保険者名、医療を受けた年月、医療を受けた人、病院や薬局、支払った金額、保険者が記載されている必要があります。基本的には記載されていますので、問題はないと思います。
領収書の提出は不要になった
従前は確定申告の際に医療費の領収書などを提出する必要がありましたが、平成29年分の確定申告から制度改正されて、領収書の提出は不要になりました。
領収書の提出が不要となり、かわりに医療費控除の明細書を提出することになりました。医療費控除の明細書とは一覧表のようなもので、領収書などの内容から記載していきます。
確定申告をe-taxや確定申告作成コーナー(国税庁のサイトで確定申告書を作成する)で入力する場合は、その場で入力して医療費控除の明細書を作成することができます。
なお、領収書などの提出は不要ですが、自分で保存しておく義務があります。確定申告の期限から5年間は保存しておかなければなりません。5年間は保存しておくと覚えておきましょう。
また、医療費のお知らせを確定申告書に添付することで、医療費控除の明細書を省略することができます。
一部の書類は添付・提示が必要です
領収書の添付は不要となりましたが、一部の書類については添付や税務署への提示が必要です。
- 寝たきりの人のおむつ代
- 温泉利用型健康増進施設の利用料金
- 指定運動療法施設の利用料金
- ストマ用装具の購入費用
- B型肝炎患者の介護に当たる同居の親族が受ける同ワクチンの接種費用
- 白内障等の治療に必要な眼鏡の購入費用
- 市町村又は認定民間事業者による在宅療養の介護費用
確定申告の方法
以上の内容を踏まえて、確定申告をする手順をまとめておきます。
- 源泉徴収票を用意する
- 1月から12月に支払った医療費の領収書などを集める
- 領収書の内容をもとに医療費控除の明細書を作成する
- 源泉徴収票と医療費控除の明細書を基に確定申告書を作成する
確定申告書の作成にあたっては、国税庁HPの確定申告作成コーナーを利用するようにしましょう。
確定申告作成コーナーだと、申告の手順、計算など丁寧に説明してくれますので、計算ミスなどが生じる心配がありません。
マイナンバーカードを持っている人はe-taxで電子データのまま申告することができますし、マイナンバーカードを持っていない人でも、作成した確定申告書を印刷して郵送すればOKです。
ちなみに、所得税は申告課税といって、自分で納付税額を計算して、その金額を納税するということです。
つまり、計算ミスをしてもその税額が確定することになります。ただし、あとで税務署からチェックが入り、税額が少ないことが判明すると、追徴課税となり、後から納付することになります。しかも、延滞税が加算されます。
仮にかかってもない医療費を虚偽で申告などすると、重い罰則などもありますので、十分に注意しましょう。
まとめ
入院などしても医療費控除については忘れてしまったり、確定申告が面倒で放置している人も多いと思います。
領収書をまとめたり入力するのは面倒ですが、計算してみると意外と多くの金額を支払っていて、想像以上に税金が還付されたという人もいます。
医療費控除以外でも確定申告することで税金が還付されるケースは多いので、確定申告は毎年するものと考えておくといいでしょう。