年金関連の制度は名称が似ているので、混乱することも多いと思います。特に拠出型企業年金保険は確定拠出年金と混同されることが多く、誤った説明が多く見られます。今回はその違いについて説明します。
拠出型企業年金も確定拠出年金と同様に公的年金の補完的な役割を果たす
拠出型企業年金も確定拠出年金も、公的年金を補完する意味合いを持ちます。
国民年金や厚生年金だけで老後を生活するのは難しいとも言われ、少しでもゆとりのある老後を過ごしたいのであれば、他に備えが必要になります。
拠出型企業年金保険も確定拠出年金も、老後準備資金が足りないと想定される場合に加入すべき年金保険と言えるのです。
拠型企業年金保険とは
確定拠出年金は基本的に自分で運用して老後に備えていく仕組みですが、拠出型企業年金保険は、保険会社が提供する自助努力型の個人年金保険です。
したがって、企業年金とも異なり、加入や掛金額は自分で自由に決めることができます。
主に会社の団体保険などで提供されています。
拠出型企業年金保険と確定拠出年金との違い
大まかな違いは以下のようになります。
拠出型企業年金保険 | 確定拠出年金 | |
---|---|---|
加入 | 任意 | |
拠出者 | 加入者自身 |
企業型:原則企業(マッチング拠出可能) 個人型:加入者自身 |
中途解約 | 可能。一時金として受け取れるが掛け金より少なくなる可能性あり。 | 原則不可能 |
給付額 | 掛金の口数や期間による | 運用成果による |
加入は両方とも任意となりますが、確定拠出年金の場合は一度加入すると、原則、60歳まで引き出すことができません。
掛金の拠出は、拠出型企業年金保険と個人型確定拠出年金(iDeCo)は加入者自身となり、企業型確定拠出年金の場合は事業主が拠出します。(マッチング拠出が可能な場合は本人の拠出もあります。)
また、給付額は拠出型企業年金保険の場合、掛金の口数や保険の期間によって異なりますが、確定拠出年金はすべてが運用成果に基づいて決まります。
拠出型企業年金保険の例
拠出型企業年金保険の具体例として、東京商工会議所のマイライフ年金共済制度(平成29年度版)を例に少し説明していきます。(マイライフ年金共済制度(東京商工会議所))
加入できるのは、東京商工会議所の会員事業所の事業主、役員およびその従業員とされ、月払いコースの場合、1口1000円で、5口から200まで加入が可能となっています。
29年度版によると掛金と支払い額の関係は、次のようになります。
積立年数 | 10年 | 20年 | 30年 | |
---|---|---|---|---|
払込累計額 | 120万円 | 240万円 | 360万円 | |
月の給付額 10年確定 |
9,950円 | 20,300円 | 31,070円 | |
月の給付額 15年保証終身 |
男性 | 4,380円 | 8,940円 | 13,690円 |
女性 | 3,830円 | 7,820円 | 11,970円 |
※29年度版マイライフ共済年金をもとに当サイトで一部改変
支払い方法には2種類あります。簡単に説明すると以下の通りです。
- 10年確定・・・10年間は死亡しても遺族が受け取れる。
- 15年保証付き終身・・・生涯に渡って受け取れるが死亡すると打ち切り。ただし15年は死亡しても遺族が受け取れる。
上の表をもとに10年確定の支払い額を計算すると、給付額との関係は次のようになりました。
積立年数 | 10年 | 20年 | 30年 |
---|---|---|---|
払込累計額 | 120万円 | 240万円 | 360万円 |
給付総額 | 1,194,000円 | 2,436,000円 | 3,728,400円 |
戻り率 | 99.5% | 101.5% | 103.6% |
また、15年保証付き終身については、何歳まで生きれば元がとれるかを計算しました。
積立年数 | 10年 | 20年 | 30年 |
---|---|---|---|
男性 | 82.8歳 | 82.4歳 | 81.9歳 |
女性 | 86.1歳 | 85.6歳 | 85.1歳 |
参考までに、厚生労働省の平成28年簡易生命表によると「60歳時点の平均寿命」は男性が83.67歳、女性が88.91歳になっています。
税制上の取扱いの違い
税制の取り扱いも重要な点です。主な違いは以下のとおりです。
拠出型企業年金保険 | 確定拠出年金 | |
---|---|---|
掛金 | 生命保険料控除として所得控除(上限あり) | 小規模企業共済として、全額所得控除 |
一時金として受け取り | 一時所得として課税 | 退職所得として課税 |
年金として受け取り | 雑所得として課税 | |
相続時 | 500万円×法定相続人数まで非課税 |
拠出型企業年金保険は掛金の控除額が少ない
拠出型企業年金保険は基本的に個人年金保険として生命保険料控除の範囲での控除となります。
生命保険料控除は最大で所得税12万円、住民税は7万円の控除が受けられますが、保険の種類(一般生命保険、個人年金保険、介護保険)によって上限が決められています。
個人年金保険だけで考えると、所得税4万円、住民税2万8千円が上限となり、それぞれ税率分が控除されます。
例えば両方とも税率が10%の場合は、所得税で4,000円、住民税で2,800円が控除されます。
確定拠出年金は掛金の控除に上限がない
一方で確定拠出年金の場合は控除額に上限がありませんので、例えば年間に20万円の掛金を支払った場合、以下のような違いがでます。(所得税・住民税ともに税率が10%の場合)
拠出型企業年金保険 | 確定拠出年金 | |
---|---|---|
所得控除額 |
所得税4万円 住民税2万8千円 |
所得税20万円 住民税20万円 |
節税額 | 6,800円 | 4万円 |
なお、拠出型企業年金保険は会社が年末調整をしてくれますので楽です。(確定拠出年金も給与天引きの場合は会社で年末調整をしてくれます。)
一時金として受け取る際の税制の違い
拠出型企業年金保険を一時金として受け取る際には、支払った掛金を差し引いた後の金額が、一時所得として課税されます。
確定拠出年金の場合は、通常の退職金と一緒に退職所得として課税されます。退職金を多くもらう人は、退職所得の非課税範囲を超えてしまうと、課税される可能性がありますので注意してください。
拠出型企業年金保険のメリットは限定的
拠出型企業年金保険のメリットは給付される金額が決まっているという点です。将来の生活設計を立てやすいといえます。
ただし、掛金に対して給付額はあまり多くはありません。
確定拠出年金は運用に不安を感じる人もいると思いますが、元本保証型の商品もありますので、毎年の節税効果を合わせると、だんぜん確定拠出年金の方がお得な設計になっています。
まとめ
拠出型企業年金保険と確定拠出年金では、公的年金の補完を行う点で同様の性質を有します。
しかし、毎年の税削減効果を考えると、確定拠出年金の方が効率よく資金準備を行える可能性があります。