税金は滞納すると大変です。地方税でも国税と同じ強力な権限で、あっという間に財産を差し押さえられてしまいます。今回は住民税、固定資産税などの地方税の滞納の流れ・対応について解説します。
税金を納めないと大変なことに
税金は国民の三大義務であることをご存知でしょうか。
- 教育の義務
- 勤労の義務
- 納税の義務
日本国憲法(抜粋)
第三十条
国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ。
日本国憲法(e-Gov)
税金を納めることは憲法にも定められた義務です。
こんな重要な義務ですから、滞納者に対してはとても厳しい法律があり、滞納者の財産の差し押さえなどがされてしまいます。
これは国税(所得税や相続税など)も、地方税(住民税や固定資産税など)も同様です。
サラリーマンは特に注意!
会社員の人の給与などの情報は、課税をする役所ではすべて把握しています。
税金を滞納した人が会社員であれば、給与を差し押さえることで、滞納した金額をどれくらい回収できるのか簡単にわかります。
後でも説明しますが、給与差押えまでの手続きは簡単ですので、滞納しないよう十分に注意したいところです。
滞納とはどういう状態?
滞納とは税金を納期限までに納付していない状態のことです。
納期限は税金の種類によって異なりますし、住民税や固定資産税などの地方税であれば市町村によって異なることもあります。
一般的な例でいうと以下のようになります。
納期 | 納期限 |
---|---|
1期 | 6月末日 |
2期 | 8月末日 |
3期 | 10月末日 |
4期 | 1月末日 |
納期 | 納期限 |
---|---|
1期 | 4月末日 |
2期 | 7月末日 |
3期 | 12月末日 |
4期 | 2月末日 |
なお、「末日」が土日・祝日にあたる場合は翌日になります。
この納期限を1日でも超えてしまうと、滞納の状態になります。
滞納したまま放置するとどうなる?
納期限を過ぎたまま放置していると、納期限から20日以内に督促状が届きます。
地方税法(抜粋・途中省略)
第三百二十九条
納税者又は特別徴収義務者が納期限までに市町村民税に係る地方団体の徴収金を完納しない場合においては、市町村の徴税吏員は、納期限後二十日以内に、督促状を発しなければならない。
地方税法第329条(e-Gov)
督促状とは滞納者に対して納付を促す通知書です。
そして、督促状を発送してから10日以内に納付しない場合は、滞納者の財産を差し押さえなければならないとされています。
地方税法(抜粋)
第三百三十一条 市町村民税に係る滞納者が次の各号の一に該当するときは、市町村の徴税吏員は、当該市町村民税に係る地方団体の徴収金につき、滞納者の財産を差し押えなければならない。
一 滞納者が督促を受け、その督促状を発した日から起算して十日を経過した日までにその督促に係る市町村民税に係る地方団体の徴収金を完納しないとき。
二 略
地方税法第331条(e-Gov)
実際には督促状から10日で差し押さえが行われることはほとんどありませんが、法令に規定されている以上、差し押さえられても文句は言えません。
納付書や督促状が届いていないときは?
納税通知書や督促状が届いていない、または、届いたのかわからない、そういった場合はどうなるのでしょうか。
納税通知書も督促状も通知書が配達されれば、それは送達したものとされるのです。もちろん、引っ越しなどで配達されず、役所に返戻されれば別ですが、届いているのに見ていないと言っても通じないのです。
このことについても、ちゃんと規定があります。
第二十条 地方団体の徴収金の賦課徴収又は還付に関する書類は、郵便若しくは信書便による送達又は交付送達により、その送達を受けるべき者の住所、居所、事務所又は事業所に送達する。以下略。
2〜3 略
4 通常の取扱いによる郵便又は信書便により第一項に規定する書類を発送した場合には、この法律に特別の定めがある場合を除き、その郵便物又は民間事業者による信書の送達に関する法律第二条第三項に規定する信書便物(第二十条の五の三及び第二十二条の五において「信書便物」という。)は、通常到達すべきであつた時に送達があつたものと推定する。
地方税法第20条(e-Gov)
わかりやすく言うと、「通知書は郵便で送る。その郵便物は通常到達すべきときに届いたものと推定する。」と言うことになりいます。
つまり、実際に通知書が届いたという確認をする必要はなく、届いたと「推定」できればよいということです。
納税通知書や督促状が適正に届いていて、滞納者がそこに住んでいれば問題ないのです。
差押えまでの流れ
滞納になると督促状が送付されるのですが、それでもまだ何もしないでいるとどうなるのでしょうか。
基本的には以下の流れになります。
- 納期限を経過しても納付がない
- 督促状の送付
- 電話・文書による催告
- 財産調査
- 差し押さえ
差し押さえの後は、自治体は差し押さえたものを換金して、滞納している税金に充当して完了となります。
3番目の電話・文書による催告以降について、簡単に説明していきます。
電話・文書による催告
まずは文書や電話で催告を受けることになります。場合によっては勤め先に役所から電話がかかってくることもあります。
財産調査
財産調査では身辺調査、財産調査が行われます。
身辺調査では家族の状況、勤務先の状況など、住民票や戸籍での調査が行われます。ちなみに、戸籍や住民票は国や地方の職員が職権で取得して調べます。
財産調査は給与の金額、銀行口座の資産残高、車や不動産の保有状況、生命保険の状況など、差し押さえが可能と考えられるものを調査します。
財産が見当たらない場合などは、実際に家の中を職員が調査することもあります。
滞納者に対する調査には強い権限が認められていて、個人情報保護の適用範囲外として、様々な調査権が認められています。
国税徴収法(抜粋・一部省略)
第百四十一条 徴収職員は、滞納処分のため滞納者の財産を調査する必要があるときは、その必要と認められる範囲内において、次に掲げる者に質問し、又はその者の財産に関する帳簿書類を検査することができる。
一 滞納者
二 滞納者の財産を占有する第三者及びこれを占有していると認めるに足りる相当の理由がある第三者
三 滞納者に対し債権若しくは債務があり、又は滞納者から財産を取得したと認めるに足りる相当の理由がある者
四 滞納者が株主又は出資者である法人
国税徴収法第141条(e-Gov)
ただし、差し押さえが禁止されている財産もあります。
生活に必要な衣類や家具、寝具、3ヶ月間の食料、仕事に必要なものなどは差し押さえができません。具体的には国税徴収法に記載があります。
差し押さえ
財産が判明すると差し押さえが実施されます。
差し押さえの前には予告書といった書類を事前に送る自治体もありますが、予告書の送付は法律できめられたものではありません。
したがって、法令どおりであれば、督促状を送付してから10日が経過して納付がなければ、いきなり差し押さえられることもあります。
銀行預金を差し押さえられた場合には金融機関へ、給与を差し押さえられた場合は職場に対して差押通知書が送付されます。
当然ですが、会社には給与が差し押さえられたことがバレてしまいます。
近年の状況
近年、差し押さえは増加しているようです。
以前はわりと自治体も甘く、余程ひどい滞納者でなければ差し押さえを実施していなかったようですが、現在ではかなり早い段階で給与を差し押さえることもあります。
「差し押さえなんてないだろう」と思っていて、突然給与を差し押さえられたという話をよく聞きます。
滞納しないよう、しっかりと納税した方が良さそうです。
税金が払えないときにどうすればよいか?
税金が払えないとわかったら、すぐに役所の税の窓口に行き、状況を説明して今後の納付をどうするか相談しましょう。
特に住民税は翌年度の課税ですので、リストラなどによって前年と比較して極端に給与が少なくなったり、事業がうまくいかなかったりして収入が減ることもあると思います。
そういった場合には減免制度などもありますし、分割納付などを許容してくれる場合もあります。まずは窓口で相談するようにしましょう。
なお、差押えの段階に入ってしまうと、すぐに滞納している税額をすべて納付しない限り、差押えが解除されることはありません。
まとめ
地方税を中心に滞納した場合のことについて説明してきました。
税金の滞納についてはとても強い権限で差し押さえなどが可能になっています。
「少しくらい滞納してもどうにかなるだろう」
などと考えず、納付できる人は速やかに納付し、納付が難しい人は窓口で分割納付などの相談をしてみてください。