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今回は終活のひとつとして、がんなどの病気になったときのことを解説します。
「がん=死亡」ではありません。治療のために、仕事やお金のことを事前に想定しておくことが大切です。

がんに対する心構え

2017年の厚生労働省の人口動態統計によると、日本全体の死亡数の134万433人のうち、悪性新生物(がん)で死亡した人は37万3,178人となっており、全体の27.8%を占める割合となっています。(参考:2017年人口動態統計(厚生労働省)

また、国立がん研究センターの調査では、生涯でがんになる確率については、男性が62%女性が47%となっています。(参考:最新がん統計(国立がん研究センター)

このようなことから、今や「2~3人に1人はがんになる時代」と言われています。

ただし、これらの調査はあくまで全年齢が対象となっており、年代別に見てみると20~40代のがん発症率は極めて低い数値となっています。

がんの罹患率が増えるのは男女共に50代以降となっており、高齢になるに従って数値が上がっていくことから、定年退職後の人生を考える年齢に差し掛かる人は、同時にがんに対する備えについてもしっかりと考えておく必要があると言えます。

がんは必ず死ぬ病気ではない

がんは1981年にそれまで死因の1位だった脳卒中を抜いて以来、ずっと1位を独走しています。

そのため、がん=死に至る病気、罹患すると治ることはないと言うイメージを抱いている人も少ないないでしょう。

しかし近年は医療が進み、早期発見であれば治癒する可能性が高くなっていますし、高度先進医療によってこれまでは治療できなかった部位の治療ができるようになったことなど、例えがんになったとしても共存できる時代へと変化してきています。(参考:がんの動向(日本対がん協会)

がんになった時仕事をどうするか

がんと診断された人の多くは「まさか、自分が」と思っています。

がんになってしまってからでは、仕事のことをじっくりと考える時間がないかも知れません。

仕事が不安定になると、がんに対する悩みだけではなく、生活費などの心配が重なってしまうため、がんの罹患率が高くなる50代に差し掛かる人はあらかじめ考えておく必要があると言えます。

がんと診断されたら

会社と休職(もしくは病欠)について話し合います。

休職については法律で定められているものではなく、会社の裁量に任されているため、就業規則に基づいて決まります。

ただし、休職はあくまでも労働の免除となるだけで、多くの会社では無給となります。

そのような場合は、健康保険から給料の6割程度が支給される傷病手当を利用することができます。ただし、傷病手当は支払いを開始した日から最長で1年6ヵ月しか受給することができません。

1年6ヵ月の間に復職して給料を受け取り、その後再び働くことができなくなっても、支給開始から1年6ヵ月以上過ぎていれば傷病手当は受給できなくなるので、入院や治療の期間を踏まえた上で、傷病手当の申請のタイミングについても会社に相談するのがよいでしょう。

がんの公表について

がんと診断されてから、手術や治療を受けるまでに多くの検査が必要となるため、場合によって数日入院したり、会社を休むことが多くなります。

また、実際に治療にかかる期間は人によって異なりますし、病院での治療が終わっても抗がん剤の投与のために通院が必要になるなど、引き続き会社を休むことがあると思います。

このようなことから、がん治療はある程度長くかかることを想定し、仕事の引き継ぎなどを相談する必要があります。

その際、がんであることを伝えるかどうか悩むところですが、残念ながらがんであると伝えたことによって、復職後に不利な状況に追い込まれるケースは少なくないようです。

そのため、がんの公表は当面、伝える必要があると思える最低限の人、信頼のおける上司や同僚に留めておくのがよいでしょう。

ただし、公表することによって精神的に手厚いサポートを受けられる可能性もあるので、その辺りについては人間関係を基本にご自身が十分に考える必要があります。

がん患者の離職率

がん患者を対象に行った調査では、がんの診断後、34%の人が依願退職もしくは解雇となり会社を去っています。

また、自営業者の場合でも13%が廃業に追い込まれています。

がんは死の病ではなく共存していく病気へと変わりつつある中、最初の手術や抗がん剤治療では有給休暇を利用できたものの、復職後にも続く治療や通院で会社を休むたびに収入が減ってしまうことや、さらには体力の低下などで以前と同じ仕事がこなせないことへの罪悪感などを理由に、自ら退職を選ぶ人も少なくないようです。

参考:がん患者の就労や就労支援に関する現状(厚生労働省)

がんと伝えたら解雇された

労働基準法では、労働者を解雇する場合には合理的な理由の存在と解雇予告の手続きが必要であると定めています。

解雇の理由が自分に当てはまっているのか、また解雇予告は30日以上前に行うのが原則となっているため、日付についても納得がいかなければ、労働組合や地域の総合労働相談コーナーに相談することができます。

復職後すぐに以前と同じように働くのは難しい

治療が終わり、やっと本格的に仕事に復帰となっても、抗がん剤の副作用や、入院や休養による体力の低下などで、実際には思うように動けない可能性もあります。

休んでいた分、遅れを取り戻すために全力で働きたいと言う気持ちは十分に理解できますが、ここで無理をしてしまうと、体調を大きく崩すことに繋がり、余計に周囲に迷惑をかけてしまうことにもなります。

そのため、最初は心身に負担の少ない仕事から始める、フルタイムではなく午前中や午後のみなど短い時間での出社を行う、場合によっては部署を変えてもらうなど、会社に配慮をしてもらう必要があるでしょう。

悩んだら「がん相談支援センター」で相談

がん相談支援センターは、厚生労働省によって全国のがん診療連携拠点病院や、小児がん拠点病院、地域拠点病院に設置されている相談窓口です。

がんになると、治療に対する疑問や医療費、仕事、生活などへの不安など、様々な悩みを抱えますが、がん相談支援センターでは悩みの相談に乗ってくれたり、がんに関する情報提供を受けることができます。

なお、がん相談支援センターへの相談はがん患者本人はもちろんのこと家族も対象です。

さらに、センターが併設されている病院での診察を受けていなくても、相談することが可能となっています。

がん相談支援センターは、設置される施設によって「医療相談室」や「地域医療連携室」「がん相談支援室」「医療福祉相談室」など、名称が異なる場合があります。

近くにがん相談支援センターがあるか調べたい場合は、以下の「がん相談支援センターを探す」を参照してください。

がん相談支援センターを探す(がん情報サービス・国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策情報センター)

がん保険について

健康保険に加入していれば、医療費が高額となったら「高額療養費制度」、入院などで一時的に働けなくなったら「傷病手当金」を利用することができます。

通常、医療費の自己負担額は支払い総額の3割です。

医療費が100万円であれば30万円、300万円であれば90万円が自己負担となりますが、高額療養費制度ではそこからさらに年齢や収入などに応じて上限が設けられ、上限を超えた分の支払いが払い戻されるという仕組みになっています。

例えば、70才未満で標準報酬月額が28~50万円の人なら、

80,100円+(総医療費-267,000円)×1%

という計算式が適用されます。

これに先ほどの支払額を当てはめてみると、自己負担30万円であれば実際に支払うのは87,430円、90万円であれば107,430円で済みます。

そのため、万が一がんになった場合に、治療費や入院費、生活費などを貯蓄で工面することができるのであれば、必ずしもがん保険に加入する必要はないと言えます。

がん保険はがんに特化した保険

医療保険に加入していれば、がんで入院した場合でも保険金の支払い対象となります。

それであればますます、がん保険に入る必要はないのでは?と思いますよね。

がんの治療方法は日々進化しており、中でも高度先進医療においては、これまで治療対象ではなかった部位に対しても治療が行えるなど、がん患者にとっては暗闇に差し込む一縷の光のような存在とも言えるでしょう。

しかし、高度先進医療は公的医療保険の適用外のため100%自己負担となってしまいます。

例えば、これまでの放射線治療とは異なり、がんの病巣だけを狙って放射線を当てることができる重粒子線治療の場合、自己負担は300万円とかなりの高額です。

それが、がん保険の先進医療特約があれば、高度先進医療を上限2,000万円(もしくは無制限)で受けられる内容となっているため、金銭的に都合がつかずに治療を諦めることもありません。

また、がんの治療では、通院による抗がん剤治療などが増えています。

医療保険の中には通院では支払いがされないものもありますが、がん保険では通院のみであっても給付金が支払われるタイプが多くなっています。

終活では保険の見直しを

終活とは、自分が亡き後、家族が困らないように生前整理を行うことを指しますが、その中には保険の項目も含まれます。

上記でも触れた通り、がんはこの先慢性疾患として長く付き合っていく病気の一つと考えられています。

そのため、今後自分が万が一がんになって、医療費などで家族に迷惑をかけないためには、がん保険に加入して保障を充実させておくことも一つの終活と言えます。

ただし、最近の医療保険ではがん以外の病気でも、先進医療特約が付けられたり、通院給付金が出るものも増えていますので、自分が加入している保険の内容がどのようなものかをまずは確認し、必要に応じて見直してみるのがよいでしょう。

保険料の仕組み

がん保険を含む医療保険は、若い年齢で契約をするほど月々の保険料が安くなり、逆に年齢が上がるほど高額になっていきます。

これは、保険料には「予定利率」と言って、運用によって得られる収益を予定して、一定の利率を割り引く制度があるからです。

そのため、がん保険の加入年齢が若い、つまりは保険加入期間が長い人ほど割引の恩恵を受けることができ、払い込み総額が低くなります。

もし、がん保険を備えておきたいということであれば、少しでも若い年齢で保険に加入した方が、長い目で見ると金銭的にも、そして何より精神的にも負担が減ると言えます。

まとめ

現在はがんは不治の病ではありませんが、治療には時間と費用がかかることは間違いありません。

そのためには仕事や医療費のことをしっかりと考えておくことが大切です。

単に「がん保険に入ればいい」ということではなく、自分の年齢や高額療養制度、そして現在の勤務先の状況などを考慮し、事前に検討しておくことが必要です。