確定拠出年金を始める前に「利回り」について考えよう

確定拠出年金は拠出する金額を決めて、毎月その金額をて積み立てていきます。

企業が従業員の代わりに拠出して、従業員が運用する「企業型」と、拠出も運用も本人が行う「個人型」がありますが、どちらの場合にも「利回り」は重要なキーワードです。

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以下では2種類の確定拠出年金のうち個人型にフォーカスし、利回りの意味や考え方について「ライフプラン」という視点から解説します。

大事なのは「確定拠出年金でどれくらいの資産を形成するか」です

資産形成

「目標利回り」を決める前に「ライフプラン」を立てよう

確定拠出年金を始める際に、多くの人は拠出金額と目標利回りを考えます。

しかし、実はこの2つから考え始めても、ちゃんとした結論を出すことはできません。

なぜなら本来拠出金額と目標利回りは、「ライフプラン」を立ててから考え始めるものだからです。

例えば、拠出金額を決めようとして「自分の収入なら毎月○万円が限界だな」と結論を出したとします。

次に「毎月○万円だと、定年退職までに□千万円か。じゃあ、目標利回りは△%くらいに設定しておくか。(最終的な金額を計算してみて)よしよしこれくらいあれば安心だろう」という具合に、目標利回りを決定したとしましょう。

もちろん、こうした決め方でもうまくいく場合はあります。

しかし、数字の上だけで漠然と拠出金額と目標利回りを決めてしまうと、いざ年金をもらうときに・・・

  • お金が足りない・・
  • こんなに準備しなくてもよかった(若い頃我慢しすぎてしまった)・・

といったことが起こります。

この事態を防ぐためには「90歳までの生涯収支」をざっくりと計算し、そこから逆算して拠出金額と目標利回りを決める必要があります。

生涯収支とは、すなわち自分が死ぬまでの間に入ってくるお金と出ていくお金の流れです。

これを考えるときの基本となるのが以下の2点。

生涯収支の基本となる2点

  1. 死ぬまでの間にどんなことをしたいか?(ライフイベント)
  2. ライフイベントにいくらかけたいか?

確定拠出年金の目的は、働けなくなって収入がゼロになった老後に、自分が思い描く生活を送るためのお金を用意することです。

自分が思い描く生活がまさにライフプランであって、ライフプランを実現するための方法の一つが確定拠出年金です。

ライフプランをまず考えなければ、確定拠出年金は始まらないといっても過言ではないでしょう。

ただし、ここでのライフプランはあくまでざっくりとで構いません。

人生は基本的に予測不可能なものです。「こうでなければならない」とがっちり固めてしまうと、予想外の事態に対応できなくなります。

「ほぼ100%実現したいこと」「実現できたらいいかなと思うこと」など、優先順位を決めて自分の人生を設計するのもいいでしょう。

ライフプランは「ライフイベント」と「老後資金」で考える

とはいえ、いきなり「ライフプランを考える必要がある」と言われても、どのように考えていいかわからない人も多いでしょう。

以下ではライフイベントの例と平均的な必要資金、老後の平均的な必要資金などのデータを挙げながら、ライフプランの具体例を紹介します。

ライフイベントの例と平均的な必要資金
イベント 用途 およその金額
結婚 ウェディング関連、新生活関連の費用 約454万円
出産 入院・分娩にかかった費用 約42万円
住宅 一戸建て・マンション(首都圏) 約4,568万円
教育 幼稚園から大学まで公立に通った場合 約1,001万円

※『確定拠出年金ベストアンサー』p60より再構成。金額の出典…結婚:(株)リクルート「ゼクシィ結婚トレンド調査2012首都圏」、出産:(株)リクルート「ゼクシィ結婚トレンド調査2012首都圏」、住宅:(株)不動産経済研究所「2012年首都圏建売住宅市場動向」、教育:文部科学省「平成22年度子どもの学習費調査」

老後の平均的な必要資金(単位:万円)
世帯収入/生活費 最低日常生活費(月額) ゆとりある生活費(月額)
300万円未満 20.4 32.7
300万円〜500万円未満 21.8 34.4
500万円〜700万円未満 22.2 35.5
700万円〜1,000万円未満 23.1 37.1
1,000万円以上 25.4 41.9
平均 22.0 35.4

※『確定拠出年金ベストアンサー』p63より抜粋。出典元:生活保険文化センター平成25年度「生活保障に関する調査」

このデータを見ると現役時代の世帯収入が高いほど、老後の生活費も高くなることがわかります。

2017年の日本人の平均寿命
男性 女性
81.09歳 87.26歳

※公益財団法人生命保険文化センター

ライフプランの具体例

マイホーム

前提条件

  • 年齢:40歳
  • 性別:男性
  • 職業:会社員
  • 現在の月収:40万円程度

どんな人生にしたいかを考える

ざっくりとした人生のイメージ 人生設計
90歳まで生きたい。 寿命は90歳。
結婚はしない、家も買わない(実家を引き継ぐ)。 子育てにかかるお金や、マイホーム購入費用は不要。
65歳までは働きたい。 65歳までコンスタントな収入がある。
老後の生活水準は中の下くらいで構わない。 老後の平均収入より低い収入に設定可能。
厚生年金は65歳からもらい始める。 年金としてもらえる満額は1年でおおよそ110万円。

どれくらいの収入があるかを考える

年代 月収 年収
40代 40万円 480万円
50代 50万円 600万円
60〜64歳 30万円 360万円
65歳以降 15万円 180万円

どれくらいの資産があるかを把握する

資産 金額
預貯金 1,000万円

老後、どれくらいお金が必要かを考える

この場合の「老後」は、国民年金をもらい始めた65歳から寿命を迎えるまでの90歳の25年間とします。

支出の項目 金額 寿命までに必要な金額
毎月の生活費 20万円 6,000万円
毎年の健康保険料・税金等 26万円 650万円
合計 41万円 6,650万円

ほかにも必要な支出は考えられますが、ここでは単純化するために生活費と健康保険料・税金等だけに絞っています。

どれくらいの資産を確定拠出年金で形成するかを決める

ここまでのプランでは、老後(65歳以降の25年間)に必要なお金は上記の表から

6,650万円

となります。

66歳からの収入は上の表のとおり、年間110万円となりますので、90歳までの25年間と考えると・・

180万円 × 25年 = 4,500万円

となります。

そして、預貯金が1,000万円あるという前提ですので、不足する金額は以下のようになります。

65歳以降に必要な金額6,650万円 – 収入4,500万円 – 預貯金1,000万円 = 1,150万円

1,400万円を追加で40歳から65歳までの25年間で貯蓄する場合、毎年約46万円、毎月約4万円の貯蓄、もしくは資産形成が必要となります。

月収はあくまで税引き前の金額なのでここから社会保険料や厚生年金、所得税に住民税、介護保険料などが必要になります。

確定拠出年金には拠出限度額があるため。こうして計算される金額をすべて確定拠出年金でまかなうというのは少し難しいといえます。

また、確定拠出年金は60歳以降にしか引き出せないため、原則として現役時代に何か必要が生じた際に対応できないことも想定する必要があります。

したがって、無理のない範囲の金額を拠出して、それ以外は必要時にいつでも現金にできる預貯金や投資信託などに回すというやり方が無難だと考えます。

ここで挙げた例はざっくりとした計算ですが、致命的な漏れさえなければ十分ライフプランとして機能します。

ライフプランに入れた方がいいものとしては、お子さんの教育にかかる費用(大学の学費など)や、車の買い替え、海外旅行など、少し金額が大きくなりそうなものは漏れないように考慮しておいた方がいいでしょう。

まずは「どんな人生にしたいかを考える」から始めてみましょう。

「利回り」次第で損をするか得をするかが決まる

ライフプランを立て、確定拠出年金でどれだけの資産を形成するかを決めて、ようやく拠出金額と目標利回りを考える段階に入ります。

以下では「そもそも利回りとは何なのか?」「なぜ気にする必要があるのか?」「どう考えるべきか?」について解説します。

利回りとは「元本に対していくら利益が出るか」

まずは利回り(年利回り)の定義から解説します。

利回りを端的に言うと「元本に対していくら利益が出るか」です。

例えば100万円の投資金額に対して1年で10万円の収益が出たとすると、利回りは10%となります。これが5万円なら5%、2万円なら2%です。

逆にこの利回りの数字がマイナスになると、元本割れを起こしているということになります。

確定拠出年金は60歳以降しか引き出せないため、仮に100万円の元本が105万円になった場合、翌年は105万円が資産として運用されます。

翌年の利回りも5%だった場合、1年後の資産金額は110.25万円となります。

このように収益を元本に組み入れて、収益がさらなる収益を生む仕組みを「複利」と呼びます。

また、複利の「長く運用するほど大きな利益を生む効果」を複利効果と呼びます。

確定拠出年金はこの複利効果により老後の資産を確保できる制度なのです。

利回りが低いと「インフレ」で損をする

「運用や複利効果でお金を増やすことには興味がないから、預貯金でいいや」と考える人もいるかもしれません。

しかし、インフレ(物価上昇)によって相対的にお金の価値が下がってしまうと、預貯金の価値も下がり、結果的に損をしてしまう可能性があります。

例えば預貯金が1万円ある人は100円の商品を100個買うことができます。しかし仮に物価が2%上昇すると、それまで100円だったものが102円になります。

物価が上昇しても預貯金は1万円のままなので、物価上昇前は100個買えていた商品も98個しか買えなくなってしまうのです。これを防ぐためには、物価上昇率以上の利回りで資産を運用する必要があります。

通常なら物価が上昇すれば銀行の金利も上がるので、物価上昇による損をカバーしてくれます。

しかし現在のマイナス金利政策は今後も長引くと考えられており、

「物価上昇率 < 預貯金金利」

という正常な関係に戻るまでは、かなりの期間を要するとされています。

したがって、資産の目減りを防ぐには、やはり資産の運用が必要なのです。

目標利回りは「対コスト」と「長期視点」で考える

では、確定拠出年金の目標利回りは、どのように設定するべきなのでしょうか。

インフレのリスクを確実に回避したい、あるいは資産をどんどん増やしたいのであれば、目標利回りを高く設定してしまえばいいように思います。

しかし高いリターンには高いリスクがつきまといます。

利回りだけに惑わされてハイリターンを狙った運用をすれば、それだけ老後の資金が大幅に減ってしまうリスクを負うのです。

確定拠出年金の利回りの基準は、以下のように考えるようにします。

  • 10%・・・信じられないくらい高い
  • 5%・・・高い
  • 3%・・・ちょうど良い

この上で「対コスト」と「長期視点」の2つの切り口で、自分に合った目標利回りを設定していきます

お金にどれだけの人生コストをかけるか?

利回りの高い金融商品ほど買い時や売り時がシビアになるため、そのための情報収集や銘柄のメンテナンスが必要不可欠です。

一方ローリスクな金融商品ほど価値の変動が小さくなるため、情報収集やメンテナンスに時間と労力がかからない傾向があります。

お金の管理のために多大な時間と労力を割くつもりなら問題ありませんが、一般的なビジネスマンには株式などの金融商品を適切に管理するのは至難の技です。

老後資金の準備は確かに重要ですが、そのために必要以上に現役時代を犠牲にしては本末転倒でしょう。

したがって、目標利回りは自分の人生全体の中で老後資金にかけられる時間と労力はどれくらいなのかが一つの指標になるのです。

短期ではなく、とにかく長期で考える

資産運用を始めたばかりの人は、資産の増減に一喜一憂しがちです。

しかし利回りが10%を超える年もあれば、マイナス10%になる年もあります。

大切なのは毎年の増減に一喜一憂するのではなく、長期的な視点で利回りがどう変動しているかです。

そのためには多少の増減に対しては「そんなこともある」と割り切らなくてはなりません。

このように考えていれば、少し資産が目減りしたからと慌ててハイリスクハイリターンな運用に切り替える必要もなくなります。

ライフプラン・拠出金額・目標利回りのバランスをとろう

最後に前掲の40歳男性、会社員の例をとって、ライフプラン・拠出金額・目標利回りのバランスの取り方を説明します。

確定拠出年金のみだと高い利回りが必要

例えば1,150万円の老後資金を作るために、企業型確定拠出年金がない会社員の個人型確定拠出年金の上限額2.3万円の拠出金額を設定したとしましょう。

1,150万円に到達するために、25年間積立てた場合には利回りが3.8%ほど必要です。

貯金も運用できれば目標利回りはかなり少なくなる

現役時代の生活水準はそのままに、目標利回りを現実的な数値に近づけるのであれば、現在の預貯金1,000万円のうち300万円を投資信託などの資産運用に回すという方法が考えられます。

これを確定拠出年金と一緒にリスク資産として運用すると、25年間の目標利回りは1%となります。

老後の生活を重視するか、現役時代の生活を重視するかは好み次第です。

実際に自分で目標利回りを計算してみて、結果次第でライフプランや拠出金額に調整を加えていけば、徐々に現実的かつ理想的な結論を導くことができます。

※利回りの計算はこちらを使っています。

確定拠出年金を始めるなら人生について真剣に考えよう

確定拠出年金を始めるためには拠出金額や目標利回りを考える必要がありますが、これらを適切に設定するためには人生について真剣に考える作業が必要不可欠です。

もちろん確定拠出年金を始めてからでも拠出金額や目標利回りを修正することはできますが、いずれは必ず考えなくてはなりません。

自分がどんな現役時代を送りたいのか、どんな老後を送りたいのか。これを機にじっくり考えてみてはいかがでしょうか。