個人事業主にとって消費税の申告はとても手間のかかるものです。
経費の整理だけでなく、消費税のことまで考慮するなんて・・
実は消費税には簡易課税制度があって、簡単に申告ができて節税にもなるんです。今回は簡易課税制度について解説します。
消費税の簡易課税制度とは?
消費税の納付額は、原則として「受け取った消費税」から「支払った消費税」を控除した金額を納めます。
これは個人事業主でも法人でも同様です。
納付する消費税の計算方法は、原則として以下のようになります。
- 納付税額 = 課税売上の消費税 − 課税仕入の消費税(仕入税額控除)
この方法だと、受け取った消費税や支払った消費税を把握するために、収入、支出ともに消費税がかかっているか否かを捉えて経理処理をする必要があります。
例えば、郵便切手や商品券などのように消費税がかかりません。
このように一つ一つ消費税を意識して事務処理をするのは大変ですし、帳簿や請求書などの保存も義務付けられます。
特に個人事業主や中小企業では経理や帳簿管理は煩わしいことの一つだと思います。
この場合、簡易課税制度を適用することで、一つ一つの消費税の有無などを把握する必要はなく、収入(課税売上)にかかる消費税額だけを把握していれば、「みなし仕入率」を利用して簡単に納付する消費税を計算することができます。
消費税の課税事業者や免税事業者などについては、こちらの記事を参考にしてください。
簡易課税制度を適用するには
簡易課税制度を利用するには条件があります。
それは「基準期間の課税売上高が5000万円以下の事業者」が「簡易課税の適用を受ける旨の届出書」を税務署へ提出するということです。
基準期間とは、個人事業主の場合は前々年、法人の場合は前々事業年度のことをいいます。
この基準期間に消費税の対象となる「課税売上高」が5000万円以下であることが条件になります。
また、簡易課税の適用を受ける旨の届出書とは、「簡易課税制度選択届出書」という名称の届出書になります。
これを所轄の税務署長宛に、「簡易課税の適用を受ける初日の前日」までに提出します。
「簡易課税の適用を受ける初日の前日」とは、個人事業主の場合は適用を受ける前年の12月31日となり、法人の場合は事業年度の最終日になります。
簡易課税の計算について
簡易課税制度の適用が認められると、消費税の納付税額を以下のように計算することができます。
- 納付税額 = 課税売上の消費税 −(課税売上の消費税 × みなし仕入率)
このみなし税率は以下のように定められています。
区分 | 業種 | みなし仕入率 |
---|---|---|
第1種事業 | 卸売業 | 90% |
第2種事業 | 小売業 | 80% |
第3種事業 | 農業、林業、製造業など | 70% |
第4種事業 | 飲食、その他 | 60% |
第5種事業 | 金融、通信、保険業など | 50% |
第6種事業 | 不動産業 | 40% |
簡易課税の計算では、課税仕入の消費税をまったく考慮しませず、みなし仕入率を使って計算を簡単にできるのです。
簡易課税の計算例
例えば、飲食業で以下のような売上と仕入(経費)があったとします。
- 売上 2160万円(消費税160万円)
- 仕入(経費) 1080万円(消費税80万円)
この場合、納付する消費税は、「160万円 – 80万円 = 80万円」で80万円になります。
簡易課税制度を利用すると、以下のようになります。
160万円 – (160万円 × 60%)= 64万円
簡易課税においては、仕入の消費税を把握する必要がなく、みなし仕入率を課税売上に係る消費税に乗じるだけなので、とても簡単になります。
ただし、後で説明しますが、みなし仕入率を使用することが常に有利になるわけではないので、注意も必要です。
事業が複数ある場合のみなし仕入率の使い方
みなし仕入率は上記のとおり、業種によって率が異なっています。
複数の業種の事業を行なっている場合の計算方法について説明します。
2種類以上の事業をする場合の基本的な計算方法
原則として、業種ごとの売上に係る消費税額を把握して、次の式で仕入にかかる消費税額を計算します。
仕入(経費)に係る消費税額 =
売上に係る消費税額 ×
(1種の消費税×90%
+2種の消費税×80%
+3種の消費税×70%
+4種の消費税×60%
+5種の消費税×50%
+6種の消費税×40%)
/(全事業の消費税額)
このように、それぞれの消費税額にみなし仕入率をかけたものを平均するような計算をします。
また、貸倒回収額などがない場合は以下の方法も認められています。
仕入(経費)に係る消費税額 =
1種の消費税×90%
+2種の消費税×80%
+3種の消費税×70%
+4種の消費税×60%
+5種の消費税×50%
+6種の消費税×40%
2種類以上の事業をする場合の特例の計算方法
上記の他、以下の場合は特例の計算方法も認められています。
特例的な計算方法をする場合
- 2種類以上の事業を行い、1種類の事業が全体の75%以上を占める
- 3種類以上の事業を行い、2種類の事業が全体の75%以上を占める
- 事業区分をしていない場合
1. 2種類以上の事業を行い、1種類の事業が全体の75%以上を占める
複数の事業をやっているものの、1種類の事業の課税売上高が全体の75%以上を占める場合は、その事業のみなし仕入率を全体に乗じて計算することができます。
メインの事業のみなし仕入率が大きい場合には有利な計算になります。
納付税額 =
全体の課税売上高の消費税 –
(全体の課税売上高の消費税 × 75%以上の事業のみなし仕入率)
2. 3種類以上の事業を行い、2種類の事業が全体の75%以上を占める
3種類以上の事業を行なっていて、2種類の事業の課税売上高の合計が75%を超える場合は、その2種類のうちみなし仕入率の大きい方はそのみなし仕入率を適用、それ以外は2種類のうち低いみなし仕入率を適用します。
例えば、例をあげて計算式を示すと以下のようになります。
- 課税売上高・・1080万円(消費税80万円)
- 内訳・・
卸売業540万円(消費税40万円)
製造業324万円(消費税24万円)
不動産業216万円(消費税16万円)
計算式は以下のとおり。
- 全体の課税売上高が1080万円で、卸売業と製造業で864万円(卸売業540万円+製造業324万円)
- 卸売業と製造業で全体の80%になる(864万円 / 1080万円 = 0.8)
卸売業と製造業で全体の80%を占めています。
みなし仕入率の高い卸売業はそのまま計算し、残りは製造業のみなし仕入率で計算します。
納付税額
= 80万円 -(卸売業40万円×90%)+(残り40万円×80%)
= 12万円
なお、上記の簡易課税の計算例はとても簡易的に示したものです。
具体的な計算方法については、国税庁のHPを確認してください。
3. 事業区分をしていない場合
2種類以上の事業をしているのに区分をしていない場合は、事業のうち最も低いみなし仕入れ率を適用して計算することになります。
この計算だと納付する消費税額が大きくなりますので、注意しましょう。
簡易課税制度のメリット
改めて、簡易課税のメリットとデメリットについてまとめたいと思います。まずはメリットから説明します。
帳簿管理や経理作業が簡易になる
簡易課税制度では上記のとおり、消費税の計算がとても簡単で帳簿も消費税を考慮する必要がないので、とても楽です。
経費や仕入れが少ない事業をしている人はお得
ウェブサイトを運営していて広告収入をメインに得ている人などの場合で、自身でウェブサイトの構築から記事の投稿まで行なっている場合は、経費が少ないにも関わらず、みなし仕入率で50%か60%程度は消費税の控除になります。
また、人件費には消費税がかかりませんおで、人件費が経費の多くを占める場合には、簡易課税によるメリットを活かせると思います。
コストが少ない事業を行なっている人は簡易課税の利用を検討した方がいいと思います。
簡易課税制度のデメリット
続いてデメリットについてまとめました。
還付をうけられない
簡易課税制度はみなし仕入率を使うため、実際に支払った消費税額を把握することができません。
したがって、消費税の還付を受けることができません。
最低でも2年間は継続する必要がある
一度、簡易課税方式を選択すると2年間は継続する必要があります。
簡易課税制度では還付を受けられませんので、翌年に大きな設備投資をする予定があって売上以上の消費税を支払っていても還付されませんので、注意してください。
事前の届出が必要
届出は事前にする必要があります。
前述のとおり、簡易課税を選択すると最低でも2年間は継続が必要であり、その間は消費税の還付を受けられなくなります。
届出は安易に出すのではなく、事業計画をしっかり認識しておくことが重要です。
簡易課税をやめるときも届出が必要
簡易課税をやめるときには「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を提出する必要があります。
簡易課税をやめるタイミングとしては、大きな設備投資などによって消費税が還付される可能性があることなどが挙げられます。
ただし、簡易課税をやめるということは、仕入れや経費の帳簿や請求書をきちんと整理して保存しておくことになります。
事前の準備などを踏まえて計画的に届け出を提出するようにしましょう。
まとめ
消費税の簡易課税制度は面倒な消費税の計算を簡易にする制度で、主に中小企業や個人事業主向けの制度です。
業務以外の事務仕事に手をかけられない人は、簡易課税の導入について、ぜひ検討してみてください。