今回は法人が加入する節税保険について説明します。
金融庁が保険を問題視しているという報道もありますが、実際はどのようなものなのでしょうか。
全体を整理しつつ、ポイントを解説したいと思います。
節税保険とは?
節税保険という名称が知られていますが、実際にはそのような名称の保険はありません。
節税保険とは、保険料を法人の損金として処理することで節税ができる保険のことです。
具体的には日本生命保険の「プラチナフェニックス」がその対象とされていますが、実際にはわりと一般的に利用されている保険です。
ファイナンシャル・プランナーとしても、保険料と損金の関係で勉強するおなじみの内容です。
保険料は保険の内容によって、経理処理上、損金になる金額が決まっています。
全額損金、半分損金、契約期間に応じて損金期間が決められているなど様々です。
今回、問題となっている保険はおそらく「長期平準定期保険」と呼ばれるものだと考えます。
長期平準定期保険とは?
長期平準的保険は、契約期間が長く、終身保険のように死亡保障を受けられ、解約返戻金が高額な保険です。
したがって、経営者が死亡した際に事業資金として利用できるだけでなく、計画的に解約返戻金を社員の退職金として利用できることや、解約返戻金を担保として借入れを受けられるなどのメリットがあります。
解約返戻金の率は保険料払込期間によって異なりますが、一定の時期がくると100%に近い返戻金になる商品もあります。
長期平準定期保険が節税保険と呼ばれる理由とは?
長期平準定期保険が節税保険と呼ばれる理由は、保険料のほとんどが法人の損金として処理できるからだと考えられます。
損金処理の方法は、簡単に言うと以下のように処理します。
- 保険期間の前半6割 保険料の半分が損金・半分が資産
- 残りの期間 前半に資産計上した金額と保険料全額を損金処理
【参考】法人が支払う長期平準定期保険等の保険料の取扱いについて(国税庁)
つまり、最初は半分損金ですが、残りの期間で前半に資産計上した分も損金処理するため、全額が損金処理できることになります。
そして、解約返戻金を退職金として計画していた場合、受け取った解約返戻金は法人の益金となりますが、退職金として支出しますので、損金扱いとなり、結果的に課税されません。
例えば、以下のようなケースを考えてみます。
- 保険料として100万円を20年間支払う
- 20年後に退職金として支出
仮に法人の実効税率(法人税や事業税など法人の税金を全部考慮した税率)を30%とした場合、損金および保険料の実質負担額は以下のようになります。
- 保険料の合計 100万円×20年=2000万円
- 節税分 2000万円×30%=600万円
- 保険料の実質負担額 2000万円-600万円=1400万円
そして、20年後の解約返戻金が1800万円だった場合、
- 保険料実質負担 1400万円
- 解約返戻金(退職金) 1800万円
つまり、1400万円で1800万円の退職金を用意できたことになるのです。
節税を想定して退職金を用意することは、預金や債券などで運用するよりはるかに利回りがいいのです。
金融庁が問題視していることとは?
朝日新聞の記事などによると、保険商品の販売方法に問題があるということのようです。
- 解約返戻金を推奨することは死亡保障という本来の趣旨から逸脱しかねない。
- 返戻金を引き上げるための設定をした商品もあり、脱法的な行為になりかねない。
【参考】「節税保険」実態解明へ 金融庁、商品設計を問題視(朝日新聞2018.6.29)
この内容について、これ以上のことはわからないのですが、長期平準定期保険自体に問題がるというよりは、PR方法なのかもしれません。
前述した日本生命のプラチナフェニックスの商品説明には、以下のような記述があります。
ご勇退のとき、解約返戻金を退職医料金として活用可能
プラチナフェニックスの販売について(日本生命保険相互会社)
ファイナンシャル・プランナーの立場から言うと、どこが問題なのかわからないといった感じです。
こういった保険は中小の経営者にとっては、必要なものだと思いますし、現行の扱いでは国税庁のHPを見る限り、問題ないように思います。
個人の生命保険などの問題は?
個人が契約する生命保険や地震保険については、特に問題視されているものはありません。
個人の生命保険を節税という観点からいうなら、終身保険、医療介護保険、年金保険にそれぞれの控除限度額がありますので、その点に注意するといいと思います。
ただ、深く考えずに保険に加入してしまうと、不要な保険料を払うことになってしまいます。
例えば、夫が死亡したときの死亡保障などは、遺族年金の金額を先に考えておいた方がいいと思います。遺族年金で生活できるのに、高額の死亡保障は不要ですから。
個人の保険の見直しなどに関しては、また改めて説明したいと思います。
まとめ
今回は節税保険と問題になっている点について説明してきました。
会社を経営されている方は、社員の退職金の積み立てなどは難しいと思います。
長期平準定期保険を利用することや、中小企業退職金共済制度などを活用することを考慮するといいでしょう。
中小企業退職金共済制度も掛金は全額損金処理できます。