まずは持ち家と賃貸のことを知る

家は買うべきか、借りるべきか。

人生の中で、誰もが必ず一度は考えるテーマなのではないでしょうか。

日本には長く「持ち家神話」が存在していましたが、近年の経済状況などから持ち家を選ばない人が増えている中で、どちらが得なのか絶えず討論されるものの、答えが出ないまま現在に至っています。

しかし、例えこの論争に結論が出たとしても、それが必ずしも自分の意見と一致するとは限りません。

本当の意味で持ち家がいいのか賃貸がいいのかを決めるためには、それぞれの良さや悪い点をよく知り、自分で判断することがとても大切です。

住宅を保有している人はどれくらいいる?

総務省統計局の発表によると、平成25年10月1日現在における日本の総住宅数は6,063万戸となっています。

統計を始めた昭和23年は1,391万戸だったので、65年の間に4.4倍も増えていることになります。

ただし、居住世帯(常に人が住んでいる)かどうかを調べてみると、空き家などの理由で人が住んでいない(別荘なども含む)住宅が853万戸となっており、総住宅数の14.1%を占めています。

持ち家の取得は新築と建て替えで9割を超える

直近の5年間を調べてみると、持ち家の取得方法で最も多かったのが新築で、持ち家全体の41.6%となっています。

次いで、新築の物件を購入が31.0%、建て替えが20.5%と続きます。

また、新築の購入世帯を年収別に見てみると、年収が400~500万円未満が52.7%と最も多くなっています。

一般的なサラリーマンの場合、20代の年収は200~300万円なのに対し、30代になると400~500万円となることから、これくらいの年代で持ち家を買う人が多いことがわかります。

コストの比較はあまり意味がない

賃貸か購入かで迷う場合、最も気になるのは「結局どちらの方が安く済むのか?」ということではないでしょうか。

雑誌の記事などでもこの内容の特集がよく組まれており、コストを算出して比較していますが、そのような比較はあまり意味がないと言ってもよいでしょう。

例えば、家賃(賃貸)とローン(購入)が同額だとした場合、同じ物件に35年(住宅ローンの最長年数と同年)住み続けたとしたら、その間のリフォーム費用や管理費などが掛からない分、賃貸の方が安く済む傾向にあります。

しかし、購入であれば35年を過ぎればローンが完済し、以後は住宅費が掛かりません。

そのため、50年60年のように長い目で見ると、購入の方が得だと言われています。

ただし、上記は全て、賃貸側が最初からずっと同じ家賃を払い続けることが前提となっており、ライフサイクルの変化によって住み替えを行うことを前提としていません。

家族が多い時は部屋数も必要となるため、それなりの家賃が掛かっても、夫婦2人になれば1LDKで十分となり家賃を安く抑えられますから、一般的に年数が経過するごとにローン額が高くなっていく購入よりも、賃貸の方が長い目で見てもコストを安く抑えられる可能性もあるわけです。

それに購入した家も50年や60年を経過すれば、建て替えを余儀なくされることもあります。

このように、賃貸、購入それぞれに掛かるコストはいかようにも変わるため、一例を比べてみたところであまり意味がないと言えます。

賃貸のメリット・デメリット

まずは賃貸のメリットとデメリットを確認してみましょう。

メリット

ライフサイクルの変化に柔軟に対応できる

これは賃貸の最大のメリットと言えます。

賃貸なら子どもの人数や成長に合わせて、その都度間取りや住環境などを選ぶことができます。

また、親の介護が必要になった場合に実家近くに引っ越してくるなど、住み替えが自由に行えます。

メンテナンス費用が掛からない

持ち家の場合は、経年劣化による屋根、壁、水回りなどの修繕が必要となり、そのたびに多額のリフォーム費用が掛かりますが、賃貸は全て大家さんが行ってくれます。

精神的に気楽でいられる

ローンの支払いがないため、プレッシャーや不安などのストレスを抱える心配がありません。

また、万が一ご近所トラブルに巻き込まれても、最終手段として引っ越しをすることができるので、その点でも気楽でいられるでしょう。

デメリット

老後の不安

仕事を退職後まとまった収入を得られなくなっても、賃貸物件に住む以上は家賃を払う必要があります。

そのため、一生賃貸で暮らすことを考えている人は、その分の家賃をしっかりと貯蓄しておくことが大切になります。

支払いが滞ってしまえば、当然ながら住む場所を追われてしまうことになります。

さらに、高齢者には部屋を貸したがらない大家さんも多く、高齢になってから住み替えようと思っても、思うようにいかない場合もあります。

改築や増築などが自由にできない

賃貸物件の多くは、壁に穴を開けることさえ基本的にNGとなっています。

そのため、住まいを自分の好きなようにカスタマイズすることはできません。

また、動物も勝手に飼ってはいけません。犬や猫を新たに飼う場合は、ペット可の物件を探す必要があります。

家賃を払い続けても自分のものにはならない

ローンは完済すれば自分のものになりますが、家賃はいくら払っても自分にものになることはありません。

購入のメリット・デメリット

続いて、購入した場合のメリットとデメリットを確認します。

メリット

老後の心配がない

ローンを完済できれば、後はお金を払わずに住むことができます。

家計の支出で最も大きな割合となる住宅費が軽くなるので、年金暮らしになっても生活設計が立てやすくなります。

好きなように手を加えられる

改装や増築などを自由に行うことができます。

もちろん費用は掛かってしまいますが、長い時間を過ごす家を自分の思うようにカスタマイズできるのは、持ち家ならではのメリットと言えるでしょう。

万が一の時も安心

住宅ローンを組む際に多くの人が加入するのが、「団体信用生命保険(団信)」です。

これは、ローンの支払い者が病気や事故などで死亡した場合や高度障害となった時に、以後の支払いを生命保険会社が負担してくれるものです。

銀行のローンを利用して家を購入する場合には、団信への加入が条件となっているケースが多いので、もしかしたら知らないうちに加入していたことになっていた、という人もいるかも知れません。

一般的には、ローンの金利に上乗せする形で保険料を支払っています。

デメリット

諸費用や固定費が掛かる

住宅を購入する際、物件価格ばかりに目がいってしまいがちですが、実際に購入となると税金や登記費用、頭金の支払い(物件価格の1~2割が一般的)など、物件価格以外にも諸費用が掛かります。

また、購入後には修繕費やマンションなら管理費などが必要となります。

ローンの支払いに対する不安

25年、30年、35年と長いローンを支払っていく中で、会社が倒産して収入が途絶えてしまったり、転職によって収入が下がってしまう可能性は0とは言い切れません。

支払いが滞納すると、銀行によって物件が差し押さえられ、やがて競売にかけられることになります。

例えそこで売れたとしても、ローン返済が残っていれば支払いは続きますし、家には住めなくなるので新しく借りる賃貸の家賃も発生してしまいます。

住み替えが難しい

購入の場合、住環境が気に入らない、ご近所トラブルがあるなどの不満があっても、簡単に物件を手離したり、新しい家に買い替えることができません。

多くの場合はストレスを抱えながら、持ち家に住み続けることになります。

これからはますます空き家が増える時代に

人口が減り続けている今の日本では、この先20~30年後には現在よりも空き家率が高くなることが予想されています。

そのため、よほどの良い条件ではない限り、希望通りの価格で家を売却するのは難しくなると言われています。

「いざという時、家を売れば何とかなる」という考え方は改めなくてはいけないと言わざるを得ないでしょう。

税金がかかる

物件を購入すれば、毎年、土地と建物に対して固定資産税がかかります。そして、死亡後には子供(相続する人)に対して相続税がかかってきます。

生活スタイルは自分と子供世代では異なりますので、相続した子供が家がを不要と考えた場合でも、売却できなければ、子供がその家の固定資産税や相続税を払うことになります。

老後の住宅、資金の確保にリバースモーゲージ

リバースモーゲージとは、持ち家を担保に借入を行うことができる制度です。

ローン完済後は住居費が掛からなくなるとしても、年金だけでは生活費が心もとないという場合などに、高齢者の新しい資金確保の方法として注目されています。

契約時には家を売却する必要がなく、そのまま住み続けながら融資を受けることができるため、住まいと資金の確保を同時に行うことができます。

銀行を始めとした金融機関が行っていますが、概ね融資は不動産評価額の50%ほどとなっており、これを極度額として毎月の利用可能額を決め、期間内に何度も借り入れを行うことができる仕組みとなっています。

資金の使い道は自由に選択できる場合が多い

年金暮らしの足しにする他、自宅のリフォームや、高齢者向け優良賃貸住宅への入居費などに使うことができます。

子ども世代への負担を軽減

親の死後、残された実家の維持や売却に頭を悩ます子ども世代が多いと言われていますが、リバースモーゲージなら自宅の売却=返済となるため、子ども世代に掛かる負担が大幅に減らせると言われています。

ただし、家が売れなかったり、売れたとしても借り入れ額がそれを上回っていれば、返済が相続人である子どもに及ぶ可能性があります。

デメリットもある

契約期限が契約者の死亡時までではなく一定の期間になっていると、売却時に契約者が生存しているにも関わらず、家を売って出て行かなければいけなくなってしまいます。

大手銀行の場合は、このような事態を避けるため契約期間=契約者の死亡時となっていますが、中にはそうではないケースもありますので、契約する際にはきちんと確認することが大切です。

また、不動産価格の下落の心配が低い地域のみでの利用に限られるため、日本全国でこの制度が受けられるわけではありません。

まとめ

家を購入するか賃貸にするかは、個人個人の状況によって大きく異なります。

現状だけでなく、老後のことや相続のことなど、長期的な将来を見据えて検討することが大切です。

現在はリバースモーゲージなどの制度もありますので、自分や家族の状況、死んだ後のことも踏まえつつ、様々な制度の利用も検討するといいでしょう。